当事者の経済的負担の軽減も限定的とみる。現在の特定不妊治療費助成制度には年間約300億円が使われ、所得制限があるが初回の体外受精や顕微授精には治療費の約6~7割の30万円が戻ってくる。保険適用になれば医療費は3割負担だ。

「保険適用で主に救われるのは所得が高くてこれまで助成を受けられなかった方々で、一定の所得未満の人は大きく改善するとは思えません。不妊治療の助成拡充は至急を要しますが、日本では医療費が適切に使われているか評価する仕組みが事実上なく、保険適用に向けては慎重な議論が必要です」(石原教授)

 不妊治療の当事者たちの悩みはお金以外にもある。排卵周期に合わせて通院しなければならず、キャリアの見通しも立ちにくいため仕事との両立が難しい。厚労省の調査では、不妊治療中または過去に経験した女性のうち、4人に1人が仕事と両立できず退職していた。Fineの試算では不妊退職による経済的損失は約1345億円にも上る。

「不妊治療に限らず、誰もが子どもを産み育てやすく、妊娠出産を先送りしないでもいい社会をみんなでつくることが大事だと思います」(松本理事長)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2020年10月5日号