「レムデシビル」の販売元のギリアド社は、50万人分の生産を目標にしている(写真:ギリアド・サイエンシズ提供)
「レムデシビル」の販売元のギリアド社は、50万人分の生産を目標にしている(写真:ギリアド・サイエンシズ提供)
期待される治療薬(AERA 2020年6月1日号より)
期待される治療薬(AERA 2020年6月1日号より)

 新型コロナ治療薬として国内で初めて承認されたレムデシビル。臨床試験結果で症状改善や死亡率の低下は見られたのか、そして副作用はあるのか。AERA 2020年6月1日号では、レムデシビルについて解説する。

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 新型コロナウイルス感染症の治療薬開発が急ピッチで進んでいる。厚生労働省がエボラ出血熱の治療薬「ベクルリー」(一般名レムデシビル)を初の治療薬として承認したほか、政府は「アビガン」の早期承認もめざす。ほかにも、いくつかの候補薬の臨床試験が国内外で進められている。ワクチン開発までにはまだ時間がかかる見込みで、今後は第2波、第3波への備えも必要なことから、国を挙げての対応になっている。

 5月7日、厚労省が特例承認し、国内初の新型コロナの治療薬となったレムデシビル。米ギリアド・サイエンシズ社がエボラ出血熱の治療のために開発したが、安全性と有効性が立証されず、どの国でも承認されていなかった薬だ。

 4月29日に米国立保健研究所(NIH)が新型コロナ感染者を対象にした臨床試験結果を発表。それによると、1063人の患者を、レムデシビルと、薬の成分を含まない偽薬を注射する二つのグループに無作為に振り分ける「無作為化比較試験」(RCT)と呼ばれる試験を実施。その結果、症状改善までの日数は偽薬のグループが平均15日だったのに対して、レムデシビルのグループは平均11日で、統計的に意味のある差がみられた。

 RCTは薬の影響を科学的に検証するのに欠かせない試験。これを受けて米国政府は5月1日、緊急時使用を許可、続いて厚労省が特例承認をした。対象は人工呼吸器や人工肺が必要な重症者だ。

 ただし、NIHの臨床試験では、患者の死亡率には統計的に意味のある差はみられなかった。また、中国などのグループが実施したRCTの臨床試験では、対象患者数が237人とNIHに比べて少ないものの、症状改善までの日数、死亡率ともに統計的に意味のある差はなかった。貧血、血小板減少症などの副作用がみられ、28人が急性呼吸不全などを起こし重篤化。18人が臨床試験を中止した。

 レムデシビルは、流通量を確保することが課題とされている。ギリアド社は10月までに世界で50万人分の生産を目標にしているが、現状では14万人分の供給にとどまる。日本政府は必要量の確保のため、同社と交渉している。(朝日新聞科学医療部記者・嘉幡久敬)

AERA 2020年6月1日号より抜粋