映画監督の豊島(とよしま)圭介さん(48)も参加し、山本さんの発言を「背筋が伸びる思いで聞いた」という。「『お前ら若い連中がダメなんだ』と言われるよりも、よほど胸に刺さった」

 豊島さんは3月20日に公開されたドキュメンタリー映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」を監督した。69年5月に東大で全共闘の学生たちが、当代随一の人気作家だった三島由紀夫を招いて開いた討論会。その一部始終を撮影したTBSの記録映像をもとに、その場に居合わせた当時の学生らにインタビューしてまとめた。

 映画は、世代を超えた二つの「対話」が主題となっている。一つは、当時44歳だった三島と20歳前後の全共闘学生たちとの半世紀前の対話。もう一つは70代に達した元学生と、豊島さんら主に40代の映画制作スタッフとの現代の対話だ。

 討論会で三島が最も強く反応したのは、当時「東大全共闘随一の論客」だったという芥(あくた)正彦さん(74)が割って入ったときだった。TBSに保存されていた記録映像の映画化を思い立った同社の刀根鉄太(てつひろ)プロデューサー(47)は「三島は好敵手を見つけてうれしそうに見えた」と語る。

 反体制の全共闘学生と、天皇主義者として知られた三島の対決は、平行線をたどるかとも思われた。しかし映像の中の三島は、不敵に論争を挑んでくる学生の発言をさえぎったり話をそらしたりせず、問いかけを正面から受け止め、言葉を返していた。豊島さんは「三島が青年たちに向けるまなざしが温かかった」と振り返り、刀根さんが「早熟な天才が、母校の東大で後輩たちとの討論を楽しんでいるようだった」と引き取った。

 全共闘運動から半世紀。筆者はここ数年、当時の学生らが開く集会に顔を出したが、多くは同世代だけの「同窓会」に見えた。それだけに今回、シンポや映画で示された「世代を超えた対話」を求める姿勢が新鮮に映った。熱情を込めて言葉をぶつけ合う、開かれた対話。それこそが現代の閉塞状況を切り開くきっかけになり得るのではないか。(朝日新聞編集委員・北野隆一)

AERA 2020年3月30日号