実はお金持ちの家で家庭教師をした経験があるそうだ。

「でも2カ月でクビになりました。中学生に数学を教えていたのですが、勉強より雑談ばかりしていたので(笑)」

 韓国の格差の現状はどうなのだろうか。

「韓国ではこの数十年、富裕層が増え続けています。K-POP人気など対外的には華やかに見えますが、国の経済が成長する裏には、対極となる貧しい存在がいる。格差はどんどん広がり、貧しい人たちはより『自分たちから、なにかが奪われている』という?奪感を強めています。でもいまは世界中がそういう傾向にありますよね」

 カンヌでもさまざまな国の人から「自分の国の話のようだ」と声をかけられたという。

「映画が世界を変えられるのかと聞かれたら、確信は持てません。でも変えられない世界をありのままに映し出すことはできると思うのです」

◎「パラサイト 半地下の家族」
格差社会のシビアな状況が悲愴感だけでなくユーモアを持って描かれる。1月10日から全国公開

■もう1本おすすめDVD 「スノーピアサー」

 ポン・ジュノ監督がハリウッド俳優と組み、韓国・アメリカ・フランスと合作した「スノーピアサー」(2013年)。近未来SFエンターテインメントの形をとりながら「格差」「階級」をにじませる内容と世界観がビビッドな必見作だ。

 2031年。ある出来事によって氷河期に突入し、生き物が死に絶えた世界。生き残ったわずかな人々は、永久機関によって永遠に走り続ける列車「スノーピアサー」の内部で暮らしていた。

 1年で地球を一周するこの列車内では前方に住む富裕層が全てを支配し、貧困民たちは最後尾で奴隷のような扱いを受けている。そんななか、最後尾で暮らすカーティス(クリス・エヴァンス)は状況を打破すべく、革命を起こし、先頭車両を目指すのだが──?!

 ポン・ジュノ監督がインタビューで語るとおり、列車を社会の階層に見立てたアイロニーが秀逸だ。エグさもありつつ観る人の倫理を問う監督の挑戦に共鳴する。

 監督作品の常連ソン・ガンホをはじめ、17年の「オクジャ/okja」にも登場するティルダ・スウィントンがメイクダウンし、ものすごい変身ぶりを見せている。

◎「スノーピアサー」
発売・販売元:KADOKAWA
価格1800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2020年1月13日号