「最近よく“カメレオン俳優”という言葉が使われますよね。でも、『役ごとに変わるのは当たり前でしょ』と思いますし、カメレオンでは済まないところまで行きたいなって」

 100人を超えるオーディションを経てつかんだ今回の俊太郎役に誠実に向き合い、努力を重ねた。毎日3時間、現役の活動弁士の指導を受けた。でも、それだけでは身につかない。かと言ってのどを痛めるほど声を出し続けることもできない。そこで自宅でも、移動中の車のなかでも、落語や講談など話芸に常に触れている状態をつくった。その期間は半年に及ぶ。

 取材の少し前、友人であるお笑い芸人の舞台に参加し、帰り際に「カツベン!」のチラシを自ら配って歩いた。

「『カツベン!』を観てもらえたらなって。観てくれれば楽しいのにって。どうしたら観てもらえるのだろう。最近、そのことをよく考えるようになったんです」

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2019年12月16日号