この区議会選挙、本来ならば「ごみの収集」「バスの運行」といった地域の生活に密着した事柄をテーマにして争うのだが、今回は異質な選挙戦となった。200万人デモなど6月以降に活発化した行政府への異議申し立てや「五大要求」運動およびそれを拒む林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の対応をどう評価するのか。香港市民にとって世論調査ではない公的な投票において、自身の考えを示す初の機会となった。

 11月4日に行われた習国家主席と林鄭行政長官との会談以降、残虐性が増した警察は、投票日直前に香港中文大学と香港理工大学を急襲し、完全武装の警官が数千発の催涙弾を構内に立て籠る学生に向けて発射。投石や火炎瓶などで対抗した者のみならず、非暴力で抗議した学生らも根こそぎ逮捕し、その数は1千人に及んだ。大学が戦場と化した映像がネットで生中継され世界中に衝撃を与えたが、多数の香港市民もそれを目の当たりにした。

“狂暴な犬(武装警官)”を街中や大学に放ち「若者らを咬んでこい」とけしかける習国家主席や林鄭行政長官に対する反感が広がったのか、それとも治安を維持し景気を回復させるために“暴徒”を容赦なく鎮圧することを支持する人が増えたのか。答えは投票箱の中にあった。

■「民主派圧勝」の見出し

 投票率は71%に達し、前回の47%を大きく上回った。ふだん区議選を棄権している人が多数投票に参加したことはまちがいなく、開票前、その大半は民主派への投票ではないかと推測されたが、案の定だった。民主派が改選議席(452)の86%にあたる388議席を獲得。対する親中派は14%にあたる62議席にとどまった。この結果を受けて香港の地元紙のみならず各国のメディアが「民主派圧勝」という見出しを躍らせ、なかには圧倒的多数の香港人が林鄭・習近平(キャリー・シーチンピン)に「NO!」を突き付けたかのように報じるものもあった。

 だが、選挙結果を分析すると、決してそうではないことがわかる。親中派の議席獲得率はわずか14%だが、得票率は42%近くあった。この大きな差は、区議選が1選挙区ごとに1名のみ選出する小選挙区制で行われているからで、本当の民意はほぼ拮抗しているといえる。

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