戦前の人気マンガ『冒険ダン吉』は、南の島に漂着した日本人の少年ダン吉が親友カリ公の機転で支えられながら王になる話だ。緒方さんは、信頼できる「カリ公」の役割を部下に求めていたのかもしれない。

「下から上がってきたことをちゃんと実行するだけではダメな状況が出てくる。トップの人(の判断)が必要なのはそういう時だけですよね」

 間近に見た歴代の国連トップらのリーダー像からも学ぶところが多かったという。6代目事務総長のブトロス・ガリ(エジプト)は、「頑固で勝手な人でしたよ(笑)。自分が考えたことは絶対に通していく」。

 7代目のコフィ・アナン(ガーナ)は、「国連(内部)から上がっていった人で、非常に細かいことまでよく知っている」。

 知識と頭脳、判断力を併せ持っていたのが、アルジェリア元外相で、アフガニスタンやイラクの和平にかかわったラクダール・ブラヒミ氏。「ダントツに頭がいい。物事をよく知っていて、この人に聞けば全てのことがすーっとわかる」。海外に出るたびに、都合をあわせて意見交換することが多かったという。

 緒方さんが決断を下す際、大事にしていたのは、知識や情報を踏まえた上で、それを超越した直感力だったという。

「あんまりまじめで細かいことを全部考えないと答えが出ないような人は、ちょっと(トップの)仕事には向かない。高等弁務官の時代でもね、いざとなったら動かなきゃならんとかね、そういう不思議な直感は、勉強したのではなくてどこかに持っていたのです」

(朝日新聞東京本社編集局長補佐(前ヨーロッパ総局長)石合力)

AERA 2019年11月11日号