姜:組織上も防衛省と内閣という形で完全に文民統制ができていますが、自衛隊員の意識として自分たちは象徴天皇の軍なんだ、という意識が新しい自衛隊の中に育まれていくでしょう。シンボリックな意味で自分たちは第1条の象徴天皇の元にある軍であるという意識がより強まりそうです。

姜:ちょっと前にも現在の上皇陛下が靖国神社の参拝要請を断ったと、大きな話題になりました。憲法で明文化された場合、将来的に海外に派遣された自衛隊に戦死者が出たら、天皇陛下がその人を悼むために葬儀に参加されるべきだという議論が出るでしょう。こうした点も、考えなければならないと思っています。韓国であれば戦死者は国家儀式として国立墓地に葬られます。韓国は共和制ですから、大統領が出てきます。日本の場合、最高司令官は内閣総理大臣ですから総理が葬儀に出席することになるでしょう。自衛隊員が戦死する事態が起きたら、やっぱり天皇陛下が来てお悔やみを言われることが、戦死者と遺族にとって一番望ましいとなった場合、どういう形になるのか。読みながら改めて考えました。

ダニ:イスラエル国家はユダヤ教ですが、個人の宗教の自由は認めています。興味深いことに、日本では宗教と国家は区別されていますが、天皇のあり方は神道に結びつけられています。天皇は日常的に祭祀を行っているというが、それは何のための祈りなのか、といった議論も起こる可能性があります。日本には、その曖昧さがありますね。

姜:その曖昧さがどうなるのかということにも、非常に興味があります。当然、右の人たちは天皇陛下が来て、死者を悼んでほしい。例えば、戦死者に生前自分が亡くなったら靖国神社に葬ってほしいという強い意思があったとすれば、殉職者として靖国神社に葬るのかという問題もあります。そこに天皇陛下が参拝する日が来るのか。憲法改正によって、これまで考えられなかったようなことが起こるかもしれません。

ダニ:急いで作られた明治の国家は日常的に新しい問題が起きました。急いで解決しようとして、システムエラーを起こしたことを教訓に、日本の憲法改正も十分な議論が必要でしょう。

姜:それらを含めて問題提起のある本で、これを色々な国の歴史を知っているダニさんが第三者的な立場で書かれてよかったと思います。日本からも、中国、韓国からも書けなかったと思いますから。

ダニ:ありがとうございます。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2019年9月30日号より抜粋