AERA 2019年8月12-19日合併号より
AERA 2019年8月12-19日合併号より

 新宿、渋谷など人口密集地を低空で飛行機が飛ぶ。にわかに信じがたい話だが、増加する訪日客に対応すべく、羽田空港の「新飛行ルート」案が進行している。国は問題ないと説明するが、本当に危険性や問題点はないのか。

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「こんな大きな音で飛んできたら、いやだよ」

 7月中旬、東京都品川区の区民会館で開催された「都心低空飛行問題シンポジウム」。300人近くが詰めかけた会場で、新飛行ルートになった場合に想定される飛行機の「爆音」を体感する騒音動画を見ていた地元に住むという男性(65)は憤った。新ルートでの運航が始まると、男性が住む地域は80デシベル近くに達するという。これは「パチンコ店内」並みの音だ。

 都心の低空を飛行機が飛ぶと決まったのは、2014年6月。国土交通省の有識者検討会が公表した。従来、騒音対策のため大型機は都心上空を低高度で飛ばさないという「不文律」があり、千葉県側から東京湾上空を経て進入するルートのみ認められていた。しかし国は、20年の東京五輪・パラリンピックに向け訪日客を年4千万人にする目標を設定。その受け皿として、羽田の4本の滑走路を効率的に使い、昼間の国際線の発着数を最大年6万回から9.9万回に増やす計画を打ち出した。

 新飛行ルート案は北風と南風の場合で異なるが、とりわけ問題になっているのが南風の場合に使われる2ルートだ。飛行機は埼玉県上空で左旋回した後、高度を下げながら中野、新宿、渋谷、港、品川、大田区と、人口密集地の都心上空を通過し、平行する「A滑走路」と「C滑走路」にそれぞれ着陸する。

 高度はこれまで、新宿付近で約915メートル、渋谷・恵比寿・麻布付近で約610メートル、大井埠頭・大井町付近で約305メートルと、東京タワー(333メートル)より低高度で進入してくる案が示されていたが反発の声が強く、国交省は7月30日、降下角度を引き上げた新たな高度案を公表。それぞれ1037メートル、701メートル、335メートルと、従来より高度をやや高めることで理解を得ようとしている。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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