「いわき精機製作所」の作業場で「トランプ談議」を交わす小宮秀美社長(左)と小関智弘さん=東京都大田区(撮影/小暮誠)
「いわき精機製作所」の作業場で「トランプ談議」を交わす小宮秀美社長(左)と小関智弘さん=東京都大田区(撮影/小暮誠)
メキシコ進出に挑む「正栄工業」の井口年英社長。トランプ大統領誕生にも動じないタフな経営者だ=神奈川県川崎市(撮影/写真部・大野洋介)
メキシコ進出に挑む「正栄工業」の井口年英社長。トランプ大統領誕生にも動じないタフな経営者だ=神奈川県川崎市(撮影/写真部・大野洋介)
トランプ政権の経済政策で中小企業への悪影響を懸念する「大橋製作所」の大橋正義社長。背景のオブジェは自社開発した「数楽アート」の製品群=東京都大田区(撮影/写真部・堀内慶太郎)
トランプ政権の経済政策で中小企業への悪影響を懸念する「大橋製作所」の大橋正義社長。背景のオブジェは自社開発した「数楽アート」の製品群=東京都大田区(撮影/写真部・堀内慶太郎)

 ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任して約1カ月。新大統領は意に沿わない企業やメディアをツイッターなどで厳しい言葉で恫喝してきた。グローバル企業は戦々恐々としている。トランプ政権で世界はどう変わるのか。AERA 2017年2月27日号では、「トランプに勝つ日本企業」を大特集している。

 世界が本当に見えていますか?──日本の中小企業の担い手らは、トランプ米大統領の経済政策を懸念する。約50年間町工場で働きながら、執筆活動を続けてきた作家の小関智弘さんと一緒に、日本の「ものづくり」を支えてきた担い手らに話を聞いた。

*  *  *

 北風にまじってかすかに工作機械の稼働音が耳に届いた。

 2月中旬。日本の「ものづくり」を支えてきた東京都大田区を、作家の小関智弘さん(84)の案内で歩いた。小関さんは高校卒業後、旋盤工として同区内の町工場で約50年間働く傍ら執筆活動を続けてきた。

 京浜急行の電車からバスに乗り継いで臨海部へ。小関さんと待ち合わせた停留所で降りると、一帯は町工場が連なる異空間だった。独特のたたずまいに目を奪われていると、小関さんがこうつぶやいた。

「今は最盛期の3分の1。ずいぶん寂しくなりました」

●お互いさまで発展

 大田区の工場数は1983年の約9200カ所をピークに、現在は約3500カ所まで減少している。

 小関さんに導かれ、「いわき精機製作所」の作業場をのぞかせてもらった。同社は創業40年目。家族だけで営む典型的な町工場だ。24坪の作業場は工具や精密機械で足の踏み場もないほど。そのほぼ全てに試行錯誤を重ねた小宮秀美社長(67)による独自の改良が施されている。

 小宮社長はこう言う。

「産業はお互いさまで成り立つもの。ものづくりの現場がまさにそうで、町工場は得意な工程や技術を互いに持ち寄り、発展してきました」

 金型研磨は指先の感覚が命だ。小宮社長の手はごつごつと節くれだち、黒い油が染みついていた。オンリーワンの製品を生み出す金属加工のオールマイティーである小宮社長に、米国の製造業復活を唱えるトランプ大統領はどう映っているのか。

「トランプさんの過激な言動は敵・味方がはっきり分かれてしまう。あれでは国内外で協力関係が保てなくなって、産業の衰退につながってしまうのではないですか」

 トランプ氏は選挙期間中、「米国にいるメキシコ人の多くは犯罪者で強姦犯だ」「ムスリム(イスラム教徒)はその信仰のみを理由に入国を禁止するべき」などと発言。米国社会のヘイトクライム(憎悪犯罪)急増も報告されている。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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