視聴率マシン トランプの人気

 2004年に始まったテレビのリアリティーショー「ジ・アプレンティス」で、トランプ氏は11年間ホスト役を務めた。実業家志望の参加者をコケにし、「クビだ!」と吠えて、一人ずつ番組から引きずり降ろす。1話で最高2700万人もの視聴者を獲得し、放送中には「トランプ・ステーキ」「トランプ・ワイン」などのグッズがふんだんに画面に映った。

「ミスUSA」「ミスユニバース」コンテストを財団で運営し、作家としてベストセラーもある。中流階級の家族連れが休暇に行くカジノやホテルを運営し、そこにもミネラルウォーター、スナック、オーデコロンなどのトランプ土産があふれている。

 今回の選挙では、視聴率稼ぎのマシンとして、テレビ局から重宝されている。米最大のネットワーク局CBSのレスリー・ムーンベス最高経営責任者(CEO)は、2月のアナリスト説明会でこう発言した。

「トランプは、米国にとってはよくないかもしれないが、CBSにとってはめっちゃいい。お金が転がり込んできて、楽しくてしょうがない。こう言うのもなんだが、ドナルド、進め、勝ち続けるんだ」

 テレビ局の取材に、電話で応じる大統領選候補者もおそらく初めてだろう。自分を批判する報道が出ると、時間帯や誰が取材者かも構わず、トランプ氏は各局の番組に電話で出演して、反論する。

 一方、ファーストレディー、国務長官時代のクリントン氏は、テレビに登場しても、夕方のニュースのほんの数分間で、生の声も聞けなかった。選挙戦に入ってからも、従来どおりゴールデンアワーに、ベテランアンカー限定で、対面インタビューを受けるのみ。ステーキやチョコやクリスタルグラスといったブランドグッズがあるわけでもない。つまり、無党派層には「雲上の人」で、総合的なブランド力ではトランプ氏のほうが勝っているわけだ。

 世論調査では両者の支持率はほぼ拮抗している。クリントン氏は本選挙までに、トランプ氏という「厚顔」の天井を破らなければならない。(ジャーナリスト・津山恵子)

AERA 2016年6月20日号