時代の空気や流行を取り入れた物語は今の子どもたちの考え方や興味を伝える。大人も手にとってみる価値がある(撮影/写真部・加藤夏子)
時代の空気や流行を取り入れた物語は今の子どもたちの考え方や興味を伝える。大人も手にとってみる価値がある(撮影/写真部・加藤夏子)

 活字離れが進んでいるとされる今、中高生に人気を誇る作家・山田悠介。その魅力はどこにあるのか。

 東京都内の私立高校2年の知子さん(仮名)は作家・山田悠介の大ファンで、中学時代から愛読している。

 山田悠介は、2001年に自費出版の小説『リアル鬼ごっこ』でデビューした後、次々とヒット作を発表。作品の売り上げ累計が2千万部を超えるというベストセラー作家である。大人で山田作品を読んだ人はそれほど多くないかもしれないが、全国学校図書館協議会などが12年に実施した「学校読書調査」では、中高校生が選ぶ「一番好きな作家」で、断トツの1位に輝いている。

「山田悠介の作品は、ロール・プレーイング・ゲームで遊んでいるみたいな展開の速さで楽しいんです」(知子さん)

 山田作品の多くはミステリーやホラーに分類されるが、その奇抜な発想力で子どもたちを引きつける。例えば、『リアル鬼ごっこ』は、全国500万人の佐藤姓の人を皆殺しにする鬼ごっこの物語、『パズル』は、エリート高校生たちが教師の命を救うためにパズルのピースを集めるデス・ゲーム、『ライヴ』は、全国に生中継される死のトライアスロンを描くといった具合だ。短いセンテンスと会話で、畳み掛けるようにストーリーが展開する。

 本の情報誌「ダ・ヴィンチ」の元編集長で出版プロデューサーの横里隆さんは、山田作品の人気の理由をこう分析する。

「山田さんのすごさは、鬼ごっこなど一つの共感しやすいアイデアを用いて、物語をとてつもないスピードで最後まで引っ張っていく『突破力』があるところ。また、どの物語もテーマがひと言で説明できるほど分かりやすい。子どもが口コミできる『伝播力』に富んでいるのが人気の大きな要因です」

 そもそも、子どもたちは本を読まないと言われて久しいが、「実は、意外に読んでいる」と、横里さんは指摘する。そのきっかけの一つに「朝読(朝の読書運動)」がある。1988年に千葉県の女子高校で始まった「朝読」は、授業前の10分間、生徒に好きな本を読ませ、子どもが読書に親しむ習慣をつける取り組みだ。冒頭の知子さんが山田作品と出合ったのも、中学時代の朝読で男子が「おもしれぇ」と騒いでいたから。

 また、通信手段の影響は大きく、「今ほど子どもが活字に親しんでいる時代はない」と、横里さん。子どもたちは当たり前に携帯電話やスマホを持ち、SNSやLINEを自在に使い、コミュニケーションは活字を通して行われる。しかし、そこで交わされるのは、短くて、記号化された簡易な言葉だ。

 高校3年生の洋子さん(仮名)もスマホで活字をよく読むが、「文が長いとスクロールするのが面倒」という。山田作品をよく読む洋子さんは、「別の作家の作品だと、読むのに時間がかかってしまう」のだそう。簡略化された文字コミュニケーションに慣れた若者にとって、ストレートで分かりやすく、スピーディーな山田作品は、理解するのに面倒がなくて親しみやすい。「宿題とかでけっこう忙しい」(洋子さん)毎日でも、手にとりやすいのだ。

AERA  2014年5月5日―12日合併号より抜粋