放射線と放射能の違い、身近にある放射線、外部被曝と内部被曝の違いなど、坪倉医師の授業は放射性物質の基礎を丁寧に解説する(撮影/編集部・宮下直之)
放射線と放射能の違い、身近にある放射線、外部被曝と内部被曝の違いなど、坪倉医師の授業は放射性物質の基礎を丁寧に解説する(撮影/編集部・宮下直之)

 医師でもある福島県相馬市の立谷秀清市長にとって、そのアンケート結果は地域の将来を暗示しているように思えた。市内の女子中学生520人に将来の結婚について尋ねると、約4割が何らかの不安があると答えた。放射能が、子どもたちの心をむしばむ姿が浮かび上がった。

「30年、40年先の地域を考えたら、主役は今の子どもたち。その子どもたちが将来への不安を抱いて成長している。科学的な根拠を示して『この線量ならば大丈夫』と言うのが私たちの役目。夢や希望を持たせたい」

 相馬市は昨年末から中学校で放射能をテーマに特別授業を行った。その取り組みが近隣市町の高校や小学校に広がっている。

 放射性物質の正確な説明をするためには専門知識を持った人材が必要だ。力を貸してくれたのは東京大学医科学研究所だった。震災直後から福島県で支援活動を行い、相馬市の放射能対策アドバイザーも務めていた上昌広特任教授(内科)の仲介で、坪倉正治医師が講師になった。同研究所所属の坪倉さんは、震災直後から医師不足に陥った福島に飛び込み、現在は南相馬市立総合病院などで非常勤医として働いている。

 10月半ば、相馬高校の2年生160人と向き合った坪倉さんは、相馬市の16歳以上、約4千人の体内のセシウム137濃度を調べた結果を示した。検出限界(1キログラム当たり約4ベクレル)以下は94.9%に上る。

「体に入ったセシウム137は排泄物と一緒に体外に出る。経験的に言うと成人の場合、約4カ月で体内の量は半分になる」

 逆に検出限界を超えた人の割合を時系列に並べると、急激に少なくなっていることも分かる。

「今、相馬市で普通に生活をしていても、大量の放射性物質が体の中に入ってくることはない。こうした事実が検査によって明らかになったんだ」

 検査で出合う極端な例は貴重な教訓をもたらす。約2万ベクレルの放射性物質が蓄積された70代男性がいた。聞くと山で自生していたキノコを食べていた。

「だからといって相馬の食べ物が全て危ないと短絡的に考えてはいけない。米やネギなど放射性物質を取り込みにくい食べ物もある。汚染されやすさを知ってそれを避け、きちんと検査された食物を選ぶことが大切」

 相馬市が昨年、18歳未満と妊婦に個人線量計を渡して計測した結果、97%が年間追加被曝線量1ミリシーベルト未満だった。

「この被曝量は、将来子どもが産めなくなるという量ではない」

 坪倉さんの言葉を聞いた同校の高橋萌香さんは「自分の体のことも将来のことも不安があったが、話を聞いて安心できた」。菅野美香さんは「あいまいな知識のままだったら不安なままだったと思う」と話した。

AERA 2013年12月2日号より抜粋