中国の習近平国家主席
中国の習近平国家主席

 3月23日夕方。東京・永田町の自民党本部の一室で、外交部会主催の勉強会が開かれた。メディアには非公開だ。ここで、ある文書が出席した国会議員らに配られた。会の講師を務めた元防衛相の森本敏氏(拓殖大顧問)が作成したもので、A4用紙10枚にまとめられていた。文書のタイトルにはこうある。

【写真】台湾の蔡英文総統

<台湾シナリオと日本の対応>

 台湾問題の基本的認識に始まり、中国、米国、台湾の戦力比較、そして中国が台湾侵攻をどう展開するかについてのシナリオが記されている。

 注目すべきは、中国の習近平国家主席について書かれた次の一文だ。

<2027年の第21回共産党大会において4期目就任を実現するまでの適切な時期(中略)に台湾統一を実現することができれば、毛沢東主席でさえ実現できなかった国家統一・民族統一を達成する>

 習氏は、台湾の統一を「歴史的任務」と公言している。その地固めはすでに始まっていて、2018年の憲法改正では、2期10年までだった国家主席の任期を撤廃した。今年秋の党大会では、習氏の3期目続投は確実視されている。外務省関係者が指摘する。

「4期目続投を確実にするために、次の任期中に台湾統一を実行に移す可能性は十分にある」

 もちろん、軍事力の強化を続ける中国でも、武力による台湾統一は容易ではない。ウクライナ侵攻では、ロシア軍の作戦は計画通りに進まなかった。国際社会の一致した経済制裁がロシア経済に与えた影響も大きく、「台湾への武力侵攻のハードルは上がった」と考える専門家は多い。

 それでも安心はできない。安全保障に詳しい小谷哲男明海大教授は言う。

「台湾本島への武力侵攻は難しくても、本島周辺にある離島を占拠する作戦は考えられます。その場合、国際社会が一致して行動できるとは限りません。中国のGDP(国内総生産)はロシアの10倍あり、東南アジアの国々は中国への経済制裁に慎重になるでしょう」

 また、台湾の蔡英文総統の力を弱めるため、サイバー攻撃やフェイクニュースによる世論誘導など、軍事と非軍事の作戦を混ぜた「ハイブリッド戦」も想定されている。自民党議員に配布された文書にも、中国があえて台湾独立派を扇動する可能性が言及されている。

著者プロフィールを見る
池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

池田正史の記事一覧はこちら
次のページ