ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、ヒップホップ界について。

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 愛知県で開催されたヒップホップの野外フェス「NAMIMONOGATARI」。サウンドが「いきものがかり」に似ていますが、かつてのNHK御用達バンドのように「品行方正に」とはいかなかったようです。いずれにしても、いつか起きると思っていた事がついに起きたといった感じですが、まさかヒップホップ方面でそれが起きるとは意外でした。

  とかく「不良」「暴力」「タトゥー」といったイメージが付きまとうヒップホップ。「悪」のレッテルを貼れる対象物を見つけては責め立て、「自分は常識人である」ことを確認し安心したがる傾向は、いつの時代にも蔓延る世間の性(さが)です。いつまで経ってもユッキーナを放っておけないように、ヒップホップもまた彼らにとって恰好のターゲットになりながら、今日まで発展を遂げてきました。

 だからこそヒップホップ界の当事者たちは、自分たちの世界を「世間」と上手く共存させるべく刻苦精励し、今回のような暴発の先陣を切るようなことだけはないよう神経を尖らせ、相当な我慢をしてきたはず。なのに何故? 世間から聞こえてくる「やっぱりね」の声が無性に悔しい。エイズの話題が出ると「どうせゲイの病気でしょ?」と言われる感覚とどこか似ています。

 そんな中、イベントにも出演した日本ヒップホップ界の重鎮やスターたちが、すぐさまSNSを通じて声明を出しました。その対応たるや、どの不倫芸能人よりも迅速かつ誠実。礼儀と仁義を重んじる彼らのスピリットを垣間見た気がします。

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