あさのますみ/1977年、秋田県生まれ。声優活動の傍ら文筆家としても活動中。2007年に絵本『ちいさなボタン、プッチ』で「第13回おひさま大賞・童話部門」最優秀賞を受賞。近著にエッセイ『日々猫だらけ ときどき小鳥』など。(撮影/関口佳代)
あさのますみ/1977年、秋田県生まれ。声優活動の傍ら文筆家としても活動中。2007年に絵本『ちいさなボタン、プッチ』で「第13回おひさま大賞・童話部門」最優秀賞を受賞。近著にエッセイ『日々猫だらけ ときどき小鳥』など。(撮影/関口佳代)

 声優の浅野真澄さんは、「あさのますみ」名義で執筆の分野にも活動を広げている。本書『逝ってしまった君へ』(小学館、1650円・税込み)は20年来の大切な友人であり、かつての恋人であった「君」への手紙という形で綴られた随想録だ。

「君」はうつ病を患い、2019年1月、自らの死を選択した。本書では「君」の思い出や、その死を受けてのあさのさんの心情の変化、その後の日々などが綴られている。

 生前の「君」は知的好奇心が豊かな、かつ自分が得た知識や経験を周りに惜しげなく還元するような人であったという。「私自身も、彼と付き合っていた大学生の頃に、彼が好きだった三谷幸喜の作品やアニメ映画の『ウォレスとグルミット』を初めて見たりして、自分の世界が広がりました」

 恋人としての関係が終わったのちも、友人としての交流は変わらずに続いた。そして、会うたびにその世界の広がりに驚かされた。それだけに、「君」の突然の死がもたらした悲しみ、また喪失感は大きかったという。

 しかし、告別式に参列し遺品整理に立ち会い、悲しみを共有する人たちと触れ合う過程で、新たな光を見つけていく。

「告別式でお会いした彼のお母さんは毅然とした態度でした。ご自身が一番つらいはずなのに、誰かを責めることもなく、『この子を許してやってください』と私たちに頭を下げられたんです。その姿に心を打たれました」

 告別式の直後、彼のスマートフォンを渡された。そこに残されたメモや日記の中には、「戻るんじゃない。変わるんだ」といった自分を励ますような言葉がいくつもあった。

「それを見て、彼は死ぬ方法よりも、むしろ生きる方法を探そうとしていたことがわかりました。それ以来、彼の死を自殺ではなく、うつという病気の発作で亡くなったのだと、とらえられるようになったんです」

 人が自死という形で命を終えると、どうしてもその人生が「悲劇」の色に染まってしまうような側面がある。しかし、あさのさん自身は現在、「君」のことを思い返すとき、生前の彼に感じたような温かい感情がよみがえってくるという。

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