なぜ、休業補償のカットがここまで横行するのか。“元凶”と考えられるのは、私立の認可保育園に認められている「委託費の弾力運用」だ。人件費の他費目への流用が一定程度できるため、事業者に「人件費を流用して儲けてもいい」という誤った認識が浸透している可能性がある。

 委託費とは、私立の認可保育園が毎月、市町村を通して受け取る運営費のこと。預かる子どもの年齢、人数、地域に応じた「公定価格」に基づいて計算され、税金と保護者の支払う保育料が原資となる。

 委託費の内訳は、「人件費」、「事業費」(給食費、保育材料費など)、「管理費」(職員の福利厚生費、土地建物の賃借料など)の三つで、人件費が8割を占める。かつての委託費は「人件費は人件費に」という使途制限があったが、待機児童問題を受けて00年に認可保育園への営利企業の参入が認められると同時に、経営の自由度を保つためという名目で規制が緩和され、制限が大幅に緩められた。

 その結果、人件費分を含む委託費が年間収入の25%まで流用可能となり、同一法人の下の他園の運営費や新規開園の整備費、株主への配当にまで回すことができるようになった。「委託費の約8割が人件費に回る」という国の想定が崩れているのが現状だ。

 人件費の流用は営利企業で特に目立つ。17年度の東京都の調査によれば、社会福祉法人の人件費は委託費の約7割、株式会社は約5割と、大きな差が生じている。

 例えば、ある大手株式会社の認可保育園A(定員96人)を見てみると、18年度の総収入2億2千万円のうち人件費の比率は45%。常勤の保育士の平均賃金は年額346万円だった。この保育園では積み立てに2800万円、他の施設や本部経費、施設整備に3400万円もの費用が流用されていた。

 このように、事業拡大のため行き過ぎた弾力運用が行われれば、給与は底抜け状態になってしまう。共産党の田村智子参議院議員がこう指摘する。

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