アベノマスクの全戸への配布開始が4月17日。このメールは、それよりもわずか9日前に送信されたことになる。メールを受け取った東海地方のアパレル会社の社長はこう話す。

「確かに、私のところにも取引先を経由して、ご指摘のものと同じメールが届きました。加工賃が1枚80円なのは、安いなと思いました」

 同様に、取引先を通じてA社からのオファーを受けたという別のアパレル会社の社員はこう話す。

「A社は『50万枚をお願いしたい』と言っていた。納期はメールにもあるように5月20日という。単価が安すぎて受ける業者がなかなかないようだ。最近になって、A社が単価を100円くらいに上げてきたので、ちょこちょこ受注する業者が出てきたと聞いた」

 東海地方の街はずれにある、プレハブの小さな作業場。そこで働く自営業者の男性は、知人の会社を通してA社からアベノマスクの仕事を請け負ったという。本誌の取材に不安な胸中をこう打ち明けた。

「まだ製造はしていません。布、ゴム紐などが提供されれば、ゴールデンウィークは返上してやるつもり。単価が80円?金額はハッキリとは言えない。A社の間に別会社が入っているので、もっと安いかも…なぜ安い単価で引き受けたか?緊急事態宣言で仕事がなく倒産の危機でもある。ハッキリ言って安すぎですが仕方ない。赤字が出なければいいのですが」

 不思議なのは、A社がアベノマスク配布の直前の4月8日になってから国内業者に製造、加工を依頼していることだ。

「A社の担当者から『不良品が多く出そうだ』『海外生産で問題ある製品が出てしまった』という話を聞いた。配布前から不良品がかなり出ることをわかっていたので、国内で追加生産を決めたようです」(前出のアパレル会社従業員)

 不良品が発見されたことを受け、興和と伊藤忠商事の2社は、全世帯配布分のうち未配布のマスクをすべて回収すると発表。今後は検品作業を強化するという。今回の「国内生産ルート」の動きは、不良品が続出することへの対応策なのだろうか。

 A社は本誌の取材に対し、「政府に納入したマスクは海外生産したもの。今後は国内生産も予定している」と回答した。

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製造業者は「感染防止ができると思えないので使いません」