シスメックスLS事業本部LS営業部長の谷口充さんはこう話す。

「私たちシスメックスグループは、15年10月に国立がん研究センター内にラボを開設して以来、徹底した品質管理と高い解析技術により構築した、がん関連遺伝子パネル検査システムを用いてがんゲノム医療の研究推進をサポートしてきました。理研ジェネシスは、米国の臨床検査品質保証(CLIA)認証を受けた信頼できる検査ラボを運営しています」

 網羅的がん遺伝子検査では、固形がん全般に対して、「NCCオンコパネル」を用いて、114の遺伝子と12の融合遺伝子について調べる。

 理研ジェネシス代表取締役社長の近藤直人さんは、こう話す。

「もっと多くの遺伝子を調べる検査もありますが、ただ多く調べればいいというものでもありません。正確性が重要です。網羅的がん遺伝子検査により、免疫チェックポイント阻害薬が効くかどうかの目安になる腫瘍組織中の遺伝子変異の量を示す指標がわかるという研究報告があります。114の遺伝子は、それを測定できる遺伝子の種類を満たしています」

■課題もあるがんゲノム医療

 期待の大きいがんゲノム医療だが、今後の課題も多い。

 先進医療において、患者が自己負担する検査費用は、約45万円程度となる。だが、検査の結果、遺伝子異常が見つかって、それに合った治療薬を処方できるとは限らない。「TOP-GEARプロジェクト」の最初の8カ月で、64例中投薬に至ったのは11例と17%程度だった。治療薬が見つかっても、それが未承認薬の場合はさらに高額な出費が必要となる。

 また、先進医療として検査を受けられる人は、標準治療がほぼ終わった人や特定の希少がんの人などに限定されている。

 現在、京都大学や順天堂大学など、自由診療で網羅的がん遺伝子検査を実施する病院は十数カ所。検査費用は60万~100万円だ。

「保険適用された場合も条件に合わない患者さんがいるため、すべてが保険診療下で検査できるというわけにはいかないでしょう。しばらくは、自由診療と保険診療との両輪で動いていくのが現実的だと思います」(近藤さん)

「実施病院の態勢整備や人材育成、遺伝子情報データの蓄積がある程度なされたところではじめて、臨床上の検査の意義が出てくるのではないかと思います」(谷口さん)

 現時点では、“夢の検査”というわけにはいかないようだが、今後、がんゲノム医療に対する注目度が高くなることは間違いない。期待してその推移を見守りたい。

(文/伊波達也)

※週刊朝日ムック「がんで困ったときに開く本2019」から