こうした現象は、サルコペニアが「筋肉が衰えていく」という病態であることから、ある程度想像できるが、その先には、ほかにも恐ろしいことが待っている。

「実は、サルコペニアの発症にともない、認知症やがんなどのリスクも大きくなることが報告されています」

 と語るのは、東京都健康長寿医療センター研究所老年病態研究チーム運動器グループ研究部の重本和宏部長だ。

 骨格筋の機能を基礎科学の見地から研究している重本部長によると、骨格筋は単にからだを支え、筋肉を収縮させることでからだを動かすだけではなく、非常に高度でダイナミックな機能を担っていることが分かってきたという。

「骨格筋からたんぱく質などのさまざまな物質が出ていて、それらは中枢神経を含む全身の臓器の代謝を制御していると考えられます。この物質が膵臓で働けば糖の代謝に役立ち、肝臓で作用すれば栄養維持をアシストする。つまり、骨格筋の衰えは全身の代謝を悪くし、あらゆる病気にかかりやすくするのです。免疫系が弱れば感染症やがんのリスクは当然高まります」

 同様に重本部長は、認知症についても言及する。

「脳についてはマウス実験の段階ですが、運動量の多いマウスとあまり動かないマウスを比べると、運動量の多いマウスは脳の海馬の細胞活性が活発で、空間認知機能も高いのです。運動することで骨格筋から何らかの物質が出て、脳もその刺激を受けているということが見て取れます。この仕組みを解明することで、認知症の早期予防法開発の大きな手がかりになる可能性も出てきました」

週刊朝日 2015年10月30日号より抜粋