安倍政権が成長戦略の一つに掲げる「カジノ解禁法案」で、ギャンブル依存症対策がクローズアップされている。厚労省の研究班によると、疑いがあるのは536万人で、うち8割はパチンコ依存だ。危機感を募らせる専門家に話を聞いた。

 ギャンブル依存症は人間のふとした心の隙に入り込み、いつしか日常生活を破壊していく。それは誰にでも起きうるという認識が世間に広まりつつある。

 今年10月に開かれた「国際嗜癖医学会」のシンポジウムで座長を務めた目白大学人間学部准教授で臨床心理士の原田隆之さんが警告する。

「依存の対象は、身近な存在であって、足を運びやすいといったアクセスの良さも関係しています」

 昨年5月に改訂された米国精神医学会の診断手引「DSM-5」は、国内の医療現場でも広く使われているが、今回初めて、「ギャンブル障害」に関する記述が加わった。その質問票で読者もチェックしてほしい(下記)。

 原田さんによると治療が必要かどうかは、本人だけでなく、家族・周りの人に大きな弊害が及んでいるかで決まる。治療方法には認知行動療法や内観療法などがある。

「認知行動療法では自分の行動パターンを分析し、問題の有無を一つひとつ点検したうえで対処法を考えます。例えば仕事帰りにいつもパチンコをしてしまうなら、店の前を通らないように帰宅ルートを変えるなど、脳のスイッチが入らないようにします」(原田さん)

 治療にかかる期間は半年から1年だが、その後の2年間は経過をみるため医療機関に通う必要があるという。それだけで治る人は2~3割に過ぎず、多くはこのプロセスを4~5回繰り返し受診する。原田さんは「失敗しても、あきらめないで気長に立ち向かうことが大切」と訴える。

 25年間にわたって依存症治療にあたる大石クリニック(横浜市)の院長、大石雅之医師が言う。

病院で治療すれば最も高い確率でギャンブル依存から離脱できると思われているが、人それぞれで、医療を必要としないケースもある。その人の性格や置かれている状況に応じて対処の仕方を考えるのが医療者の役目です」

◆ギャンブル障害を見極めるための質問票
□ ギャンブルにとらわれている。
□ より強い興奮を得るために賭け金を増やしてしまう。
□ ギャンブルを抑えよう、減らそう、あるいはやめようと何度も努力したけど失敗した。
□ ギャンブルを減らしたりやめたりすると落ち着かなかったり苛々したりする。
□ 悩みや嫌な気持ちを解消する手段としてギャンブルをする。
□ ギャンブルで失ったカネを取り返そうと、後日さらにギャンブルをしてしまう。
□ ギャンブルにのめり込んでいるのを隠そうと嘘をついてしまう。
□ ギャンブルで大切な人間関係や仕事・学校などに危険が生じた、あるいはそれらを失った。
□ ギャンブルでお金が足りなくなり、誰か人にお金を助けてもらった、あるいは助けてもらおうとした。

週刊朝日  2014年11月21日号より抜粋