「暑苦しい」「強引なストーリー」という意見もあったドラマ『若者たち2014』。しかし、ドラマ評論家の成馬零一氏は、現代の“若者の痛み”を描いた場面を発見したという。

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「理屈じゃねぇ~んだよぉ」

 5人きょうだいの佐藤家の朝は、長男の旭(あさひ)(妻夫木聡)のこの一言から始まる。

 9月24日にラストを迎える『若者たち2014』は、1966年に放送された『若者たち』のリメイク作品だ。学生運動や労働争議が盛んだった時代を背景にした青春ドラマの元祖とも言える作品で、元のドラマを見たことがない人も、「君の行く道は果てしなく遠い」という歌詞で始まるザ・ブロードサイド・フォーが歌う主題歌を、一度は聴いたことがあるだろう。今回は森山直太朗がカバーして、劇中で繰り返し流れた。

 脚本は武藤将吾が担当。チーフ演出を務めたのは『北の国から』などで知られる杉田成道だ。佐藤きょうだいを演じるのは妻夫木のほか、瑛太、満島ひかり、柄本佑、野村周平。また吉岡秀隆、蒼井優、長澤まさみ、橋本愛といった主演級の俳優が脇を固めて、実力派俳優たちによる夢の共演が話題となっていた。

 しかし、第1話の放送後、その暑苦しい芝居と強引なストーリーに賛否は大きく分かれた。なかでも下町で暮らす佐藤きょうだいの描写に、「現代とは思えない」という批判が相次いだ。つまり、今の若者を描いた作品というよりは、大人の頭の中にある若者像を押し付けられているように感じた人が多かったのだ。

 
 第4話で、三男の陽(はる)(柄本佑)が座長を務める劇団が上演したのは、つかこうへい作の『飛龍伝』だ。学生運動の華やかなりし頃を描いた作品だが、それを劇中劇として見せるあたり、“自分たちの描く若者は、もはやノスタルジーの対象にすぎない”と宣言しているようにも感じた。

 では、本作は現代の若者を描くことはできなかったのか?

 旭と梓(蒼井優)の結婚と出産を中心に、きょうだいたちの物語が並行して描かれるのだが、もっとも痛々しかったのは、四男の旦(ただし)(野村周平)の話だ。

 旦は、恋人の香澄(橋本愛)のラブホテルで撮影した写真をネットにアップする、いわゆる“リベンジポルノ”を行ってしまうのだが、そこに至る過程が実にひねくれている。

 元々、二人は予備校で知り合ったが、香澄の目的は旦に妊娠したと嘘をついて金をだまし取るためで、写真も香澄が自分で撮影したもの。その後、陽の説得で更生した香澄は陽の劇団に女優として入団し、旦は香澄と改めて付き合うことになるのだが、じつは香澄は陽が好きで、旦に隠れて二人は付き合っていた。それを知った旦は逆上してストーカー行為を行って警察沙汰となり、最後の最後に、香澄の画像をネットに上げてしまう……。

 その結果、香澄は引きこもり、愛想をつかした劇団員も全員辞めてしまう。最終的には香澄が女優として復帰して、陽と旦の3人で劇団を再生させることを予感させて物語は終わるのだが、「誰が悪いのか?」と考えさせられる心理テストのようで、やりきれない話だった。 

 とはいうものの、リベンジポルノを悪人の行為として描くのではなく、一人の少年の恋の苦しみの果ての帰結として描くことで、「理屈じゃねぇ」気持ちが描けたと思う。

 旦がスマホでリベンジポルノを投稿する瞬間、このドラマは間違いなく現代の“若者の痛み”を捕まえることに成功した。もはや、このような切羽詰まったギリギリの場所にしか、若者はいないのかもしれない。

週刊朝日 2014年10月3日号