ロンドンの老舗ライブハウス、「ロニー・スコッツ」に、ザ・フーのロジャー・ダルトリー(ボーカル)とピート・タウンゼント(ギター)を迎え、この50周年ツアーが発表されたのは6月末。そして、そのとき「最後になるかもしれない」と、彼らはその胸中を明かした。

──今度のツアーは“長いさよならの始まり”とおっしゃいましたが、真意は?

ロジャー・ダルトリー(以下R) 「永久にツアーを続けるというのは不可能だからね。いつまでツアーできるか自分たちでもわからない。アルバム制作中止の前にまずツアー活動をやめることになると思うんだ。ツアーは体にこたえるんだよ(笑)。だから今回が最後かな、という気持ちなんだ」

──ピートさんはこのツアーの内容は“Hits, Picks, Mixes and Misses”(ヒット曲、人気曲、不発曲もまぜて)と表現していますが、この意味は?

ピート・タウンゼント(以下P) 「ツアーを発表すると、多くの昔からのファン、熱狂的なファンからeメールを受け取るんだ。どんな曲をやってほしいかについてね。過去の曲の中から個人的な思い入れのある曲を選んでくる場合が多い。だからそういった、あまり知られていない曲を今回は何曲か交ぜてみたいなと思っているんだ。それが不発曲の意味だよ。ほかに『ドッグス・パート2』『ドッグス』や『ナウ・アイム・ア・ファーマー』などやってみるかも……。まあ、そんな感じだね。1989年に25周年のツアーをやったが、あの時は長いブレークの後の再結成だった。82年に解散して以来というか、僕がバンドを去って以来……。89年の再結成ツアーの時は3時間半のセットをやった。リハーサルした曲は100曲にも及んだと思う。その多くはほとんど知られていない曲だった。今回はそれほど多くの曲を網羅することはないと思うが、これまで何度も僕らのライブを見てくれたファンでも驚きと言えるような曲をやりたいと思っているんだ」

──さっきの生ギターライブはとても素晴らしかったですが、今年のツアーも、生でギターをやりますか?

P 「ロジャーも生ギターのライブは楽しんでいるようだし、僕としてもやりたいと思う。ただ大箱でライブをやる場合、生ギターの曲を入れると、ステージの音環境が全く変わってしまうのが問題なんだよ。前回のツアーでのことなんだが、一番最後にとても静かな曲、とても親近感のある生ギターを使った曲をやった。そのために観客の皆に、静かに聴いてもらいたいとお願いする必要があったんだ。ライブの音の大きさ、全体的な音の質を変えるのはとても難しいんだ。会場の雰囲気をコントロールするのは難しい。でも、昨年、ツアーをしている時に、途中で『アイアムワイアード』や『ドゥローンド』を生ギターで1曲弾いたりしたこともあったし、その時はうまくいったよ。ただやるのは難しい、ってことなんだ」

(ロンドン在住 音楽ライター・高野裕子)

週刊朝日  2014年8月1日号より抜粋