経験が災いする? 高齢者登山の落とし穴 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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経験が災いする? 高齢者登山の落とし穴

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今年7月、登山客でにぎわう白神山地の田代岳(秋田県)。ワタスゲの咲く高層湿原は熟年登山者にも人気(c)朝日新聞社 

今年7月、登山客でにぎわう白神山地の田代岳(秋田県)。ワタスゲの咲く高層湿原は熟年登山者にも人気(c)朝日新聞社 

 6月25日夕方、北アルプス北穂高岳(3106メートル)に登った2人が戻ってこないと、長野県警に救助要請が入った。夜間に及ぶ地上捜索で滑落死している2人を発見。翌朝、71歳男性と66歳女性の遺体がヘリコプターによって収容された。下山中、標高2800メートル付近の斜面を滑り落ちたとみられている。

「2人とも登山の経験は豊富で、とくに男性は50年以上の経験があったと聞いている。まだ雪が残っていたが、アイゼンやピッケルもあって装備に問題はなく、コースからはずれていたわけでもない。何らかの理由でバランスを崩してしまったのだろう」

 県警本部で20年以上、山岳遭難救助隊にかかわってきた宮崎茂男隊長はそう語る。

 警察庁の発表によると、昨年の山岳遭難は2172件。前の年に比べ184件増加した。遭難者数は2713人、うち死者・行方不明者は320人と、いずれも統計が残る1961年以降、もっとも高い数値となった。

 なかでも深刻なのは、高齢者の事故・遭難だ。山岳遭難者のうち、60歳以上が占める割合は46.4%。登山人口に占める高齢者の割合を考えれば特別多いわけではないが、死者・行方不明者に限ると63.8%と、その割合はさらに高まる。

「経験不足や無計画な登山によって遭難してしまうのは、比較的若い人に多い。一昨日も、登山経験のほとんどない30歳の女性が軽装で北アルプスに入って滑落・負傷し、ヘリコプターで下山しています。ところが高齢者の場合、装備や計画に特別問題がなくても遭難し、死亡事故にまで至ってしまうケースが少なくない。年齢からくる衰えが事故につながっている可能性は、否定できません」(宮崎隊長)

『病気に負けない健康登山』などの著書もある群馬大学病院の齋藤繁医師は、高齢者の山岳遭難の原因として、「予備力の低下」を指摘する。予備力とは、体力・生理機能の通常時と最大時の差のことをいう。

「たとえば通常時の酸素摂取量は、20代でも60代でもそれほど大きな違いはない。ところがいざというときの予備力は、20代は通常時の4倍ほどあるのに対し、60代は1.5~2倍程度にしかならない。個人差はありますが、酸素摂取量以外の能力についてもほぼ同じことが言えます。つまり、道に迷って予定の1.5倍歩かなくてはならない、急な雨で体温が奪われ道も悪くなった、仲間が体調を崩して荷物を持ってあげなくちゃいけない、などの不測の事態に対処するための力が、年齢を重ねるにつれ弱まるのです」

 山岳遭難の原因を見ると「道迷い」が41.8%と圧倒的に多く、次いで「滑落」17.0%、「転倒」14.5%と続く。山岳ライターで、遭難事例にも詳しい野村仁さんはこう語る。

「道迷い自体は珍しいことではなく、早い段階で気付いて戻ることができれば問題ない。ただし引き返す判断が遅れると危険は急増する。コースに戻れず、歩き回って体力を失ったところに険しい道や崖に出くわして転倒・滑落すれば、命にかかわる。とくに高齢者はちょっとした道でもバランスを崩しやすい。若い頃の経験がある分、『このくらいの山なら大丈夫だろう』と油断してしまい、それが事故につながります」

週刊朝日  2014年7月18日号より抜粋


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