過去2度にわたってエレベーターの暴走による死亡事故を起こしたシンドラー社。なぜこんな大惨事が繰り返し起きてしまったのか。

 同社の名前を図らずも有名にしたのは、これまでも述べてきたとおり、06年6月に東京都港区の公共住宅「シティハイツ竹芝」で起きた「戸開走行(とかいそうこう)」による死亡事故だ。

 住民で高校2年生だった市川大輔(ひろすけ)さん(当時16)が、エレベーターを降りようとしたところ、扉が開いたまま上昇したエレベーターの床と建物の天井との間に挟まれ、亡くなったのである。

 事故の直接の原因は、ブレーキが摩耗して利かなくなったこと。ずさんなメンテナンス体制に問題があったとして、09年7月、シンドラー社の元幹部2人と保守管理会社の幹部の計5人が業務上過失致死の罪で起訴された。シンドラー社側は無罪を主張しており、現在も刑事裁判が続いている。

 この事故は、日常生活で使用するエレベーターに死に至る危険が潜んでいることを世に知らしめた。

 事故の後、シンドラー社はエレベーターの国内での新規受注が激減し、設置台数も減少。現在の業務は、既存設備の保守点検が中心となっている中で、悲劇がまた、繰り返されたのは、12年10月。

 石川県金沢市の「アパホテル金沢駅前」に設置されたシンドラー社製のエレベーターで、またも「戸開走行」によって清掃業者の女性従業員・前多外志子さん(当時63)が死亡する事故が発生し、石川県警は捜査本部を設置。事故機を製造したシンドラー社の工場などを家宅捜索するなどの捜査が行われている。

 やまないトラブルの原因は何なのか。長年、シンドラー社製も含む各社のエレベーターを扱ってきた保守管理会社のベテラン技術者がこう解説する。

「シンドラー社製のエレベーターは国内メーカー製に比べるとブレーキの構造が独特で、メンテナンスが難しい。微妙な調整ミスでもブレーキの摩耗につながりやすい」

 確かに、昨年2月に公表された国交省の事故調査部会による中間報告書でも、事故の原因の一つに〈ブレーキの構造上の特性〉をあげ、次のように指摘していた。

〈ブレーキライニングの摩耗により、ブレーキドラムが収縮した時点でブレーキ保持力を全て失う特性を持っている〉
〈ブレーキの引きずりに対し脆弱な構造となっている〉

 シンドラー社員も、次のように語った。

「ブレーキの構造に問題点があるのは確かです。海外製のカゴと国内メーカー製の制御装置のマッチングが悪く、海外の製品には設置されている『KBスイッチ』という信頼度の高い安全装置が日本のものにはつけられなかった。こうした点を補う対策が十分にできていなかったことが問題だと思います」

(ジャーナリスト・今西憲之、本誌・小泉耕平、福田雄一)

週刊朝日 2014年5月30日号より抜粋