農政・食生活ジャーナリストの山本謙治氏は、食材偽装問題をきっかけにして、これまであいまいだった外食産業の表示基準は少しずつ整理されていくと予測する。

*  *  *

 表示の厳格化が行き過ぎると、食品業界全体に悪影響を与える可能性もあります。この混乱状況を整理すべくガイドラインを作成しているであろう消費者庁も、そこに頭を悩ませているはずです。

 食べ物は、工業製品と違って、一年中同じ場所から同じ食材を調達することは難しい。いつも使っている農園や漁港から悪天候で食材が届かないこともある。だからといってウソの表示はダメですが、細かいところまで表示を求めると、事業者が労力とコストをかけてラベルやメニューを変更しなければなりません。それは結果として、価格の上昇となって消費者に跳ね返ってくる。「食材表示はどこまで必要なのか」を考える必要もあります。

 そういった事情もあり、外食業者がリスク回避するために、食材表示は簡素化される方向に向かうと思う。たとえば「◯◯農園の有機野菜サラダ」として提供されていたものが、たんに「野菜のサラダ」と書かれるようになる。日本では1980年代のグルメブームから、時代に食材の産地や説明を強調するようになりました。それに慣れてしまった消費者からすれば、どこか物足りなさを感じるかもしれません。

 だからといって、食が楽しめなくなるわけではありません。生産者は、以前と同じように食べ物を作っているのですから。

 消費者としては、スーパーやレストランで店員と積極的に会話をするといいでしょう。「今日のおすすめは?」「この魚はどこから仕入れたの?」という簡単な質問をしてみる。提供する食べ物に自信がある店員であれば、喜んで話してくれるはずです。

 それ以外にも、安すぎる食べ物に気をつけてほしい。7、8年前は158円だった納豆が、今では58円で売られていることもあります。その背景では何らかの偽装が行われているか、苦しんでいる生産者・メーカーがいてもおかしくない。

 一連の食材偽装問題は、業界の負の部分が表に出ました。一方で、消費者が食べ物について考えるいい機会になったのかもしれません。ブランドをありがたがるのではなく、会話を重ねて食材への理解を深め、適正な価格で購入する。この動きが広がれば、日本の食卓はもっと豊かになるはずです。

週刊朝日  2014年1月3・10日号