山口県周南市の“限界集落”で起きた連続殺人事件。ほかにも昨年10月に日本刀で近隣住民の女性を切りつけて殺した86歳の男性をはじめ、全国で次々と高齢者が殺人、放火、暴行、傷害などの犯罪を起こしている。法務省が発表した平成24年版の犯罪白書によれば、高齢者の犯罪は、最近20年間で著しく増加。高齢者犯罪の増加率も、高齢者人口の増加率をはるかに上回っている。いったいなぜ、高齢者の犯罪が最近、目立って増えているのだろうか。

「経済格差による貧困や、福祉制度の欠陥が原因とも考えられますが、それだけが問題ではありません」。そう指摘するのは、高齢者犯罪を研究する慶応大学の太田達也教授だ。

 太田教授は、その原因には「社会的孤立」が関係しているとの仮説を立て、こう解説する。「平成に入ってからの家族構成は、単身世帯と夫婦2人世帯が急増しており、子どもとの関係が希薄になっています。これが社会的孤立を招く一つの要因です」。

 興味深い調査がある。内閣府が子どもと別居している60歳以上の高齢者に「子どもとの接触頻度」を調査したところ、「ほとんど接触がない」と答えたのは2.6%と低い数値だった。

 だが、太田教授が警察庁と協力して、高齢犯罪者1万人を対象に同じ調査をしたところ、強盗犯の63%、詐欺犯の60%、殺人犯の43%が「ほとんど子どもと接触がない」と回答する調査結果が出たという。

「つまり、気を配ってくれる人間が周囲におらず、孤立してしまうことが高齢者を犯罪へ走らせる要因の一つと言えるのではないでしょうか」(太田教授)

 山口県で起きた5人連続殺人・放火事件も、保見光成(ほみこうせい)容疑者の社会的孤立が指摘されている。

 いっぽう犯罪が増える要因には、脳機能の低下が影響しているという見方もある。老年精神医学が専門の精神科医・和田秀樹教授(国際医療福祉大学大学院)は、こう分析する。

「年をとると、脳の前頭葉という部分が縮み、感情の抑制機能が低下してキレやすくなってしまうのです」。つまり、“暴走老人”になってしまうのは、人間の摂理だというのだ。だが、それはいつの時代も同じなはず。なぜ近年になって増加しているのだろうか。

「やはり、そこには高齢者が増えすぎていることも関係しているのではないでしょうか。4人に1人が高齢者という超少子高齢社会の日本において、本来は敬われるべき高齢者が若者からないがしろにされています。ただでさえイライラしやすい老人が、このことによって暴走しているのかもしれません」(和田教授)

週刊朝日  2013年8月9日号