「原子力ムラ」の代表と、反原発の急先鋒。原子力に深い因縁を持つ2人の戦いは、対照的だった。

 大敗の民主党の中、比例区党内2位の得票数で当選したのは浜野喜史(よしのぶ)氏(52)。22万人の規模を誇る、電力会社の労組組織「電力総連」の組織内候補だ。

 民主党が電力業界と相いれない「脱原発」を唱えているだけに、ポスターやホームページに「民主党」の文字はほとんど見えない。苦労のほどを聞こうとしたが、電力総連の担当者は、「取材は各社ともお断りしています」と言うばかり。ならば演説を聞こうと各地方組織に問い合わせても、「演説会は組織の内部に向けてやるものなので、報道関係者は入れません」。

“政党隠し”どころか、これでは“候補者隠し”である。街頭演説もほとんどしなかったというから、一般の有権者は浜野氏の主張に耳を傾けるチャンスがなかったことになる。電力総連幹部が、こう内情を明かした。

「外に支援を訴えると原発のことでクレームがくるから、箱もの(組織内の演説会)しかない。票を取りにいくのでなく、固めるだけ。ひたすら目立たないように耐えていた」

 それで当選するのだから、「原子力ムラ」の結束はよほど固いのだろう。

 一方、街頭にどんどん出て訴えたのが、「反原発」の急先鋒、無所属の山本太郎氏(38)だ。大激戦の東京選挙区(5議席)の4位で初当選を果たした。「ボクを勝たせてくれた人たちを裏切って命を狙われるのが怖い」と、ジョークを連発して支援者の笑いをとった。   

 毎日100人を超すというボランティア軍団で臨んだ選挙。スタッフには、ひときわ目立つ “ガン黒”ギャルの姿まであった。ダンスインストラクターだという彼女に話を聞くと、「最初は民主党候補者の陣営にいたけど、見た目を注意されて、2日でクビになりました。ここは“しきたり”もなく、自由にものが言える雰囲気なのがいい」。

 ネット選挙の解禁も山本陣営の追い風になった。「候補者とツーショットを撮ってネットで拡散して」と、高い知名度をフル活用した戦いを繰り広げた。「選挙ポスターが剥がされていると通報のあった地域をネットで伝えると、有志がすぐに貼りなおしてくれた。ネットがなければここまで戦えなかった」(選対事務局長)。

 閉ざされた「組織」で勝った浜野氏と、オープンな「ネット」で勝った山本氏。国会で2人が相まみえる日は近い。

週刊朝日 2013年8月2日号