IOC委員に対するプレゼンテーションを終え、会見する(右から)太田雄貴選手、滝川クリステルさん、猪瀬直樹・東京都知事、麻生太郎副総理、水野正人・招致委専務理事=7月3日、スイス・ローザンヌ (c)朝日新聞社 @@写禁
IOC委員に対するプレゼンテーションを終え、会見する(右から)太田雄貴選手、滝川クリステルさん、猪瀬直樹・東京都知事、麻生太郎副総理、水野正人・招致委専務理事=7月3日、スイス・ローザンヌ (c)朝日新聞社 @@写禁

 2020年五輪招致を目指し、東京、イスタンブール、マドリードの3都市が争いを繰り広げている。そんな中、現在、東京はかなりいい位置につけているようだ。

 はっきり言って、東京には「追い風」が吹く。理由は三つ。まずは、この確かで綿密な開催計画だ。

 6月25日に公表されたIOC評価委員会の報告書では、3都市の明確な優劣は示されなかったけれど、東京の評価が一番高かった。とくに約4千億円という開催準備基金の存在が大きい。地震の懸念や、原発事故の影響による電力不足などへのIOCの不安も払拭(ふっしょく)されていた。

 対照的なのは、イスタンブール。隣国シリアの内戦による治安上のリスクや、輸送計画の不安を指摘された。マドリードも経済危機の影響に懸念が示された。開催計画説明会の後、元スキー王者、ジャン=クロード・キリーIOC委員(フランス)は言った。

「東京は非常にクオリティーが高い。施設、輸送、治安……。(招致レースで)好位置に付けていると思う」

 二つ目の「追い風」が、イスタンブールの失速である。5月末、イスタンブールを中心に、トルコで反政府デモが湧き起こった。確かにIOC委員の慣例からいくと、直近のトラブルには都市の「成長痛」として目をつむるところがあるが、このところの不穏な世界情勢は無視できまい。

 しかも、2016年リオデジャネイロ五輪の準備の遅れ、来年のブラジルでのサッカー・ワールドカップに向けたスタジアムの建設遅れが深刻だ。どうしたって、スポーツ界に「安定志向」の風が吹き、IOC委員を慎重モードにさせている。

 例えれば、4年前の招致レースは無風下でのヨットレースみたいなものだった。だから、チャレンジングな南米初のリオが勝利した。だが、今回は悪天候下のマラソンレースなのだ。マドリードにしても、スペインの経済危機の不安を払拭はできていない。開催計画説明会のプレゼンでは、早くもセーリングの元五輪選手で招致委名誉会長のフェリペ皇太子を担ぎ出して勝負に打って出た。

“王室効果”だろうか、「マドリードがベスト」(パウンドIOC委員=カナダ)との言葉通り、東京を上回る高い評価を受けて挽回したようでもある。だが、翌日の地元ローザンヌの新聞の1面に「ポルトガルの経済危機」の記事が載り、スペインへの影響も避けられないとの不安が広がった。

 今回、ローザンヌでIOC関係者の話を聞いて、長年、五輪取材をしている筆者が驚いたことがある。お世辞抜きで、「不確実な時代に、確実な五輪」を約束している東京の評価が高いのである。

 三つ目の「追い風」が、「オール・ジャパン」の見事な結束である。政府の支援、五輪選手たちのパワーも力となっている。開催計画説明会には、麻生太郎副総理が出席した。スポーツ途上国への政府支援構想もぶち上げた。麻生副総理の会見は、実に面白かった。「ロビイング(ロビー活動)」の質問を、「ドーピング」と聞き間違え、途中で大笑い。

「ロビイングの手応えね。政治家やって、そんなことばっかりやっている。条約交渉と比べると大したことはないと思う。でも4年前の招致と比べると、すごいんじゃない」

週刊朝日  2013年7月19日号