「アベ相場」がひどいことになっている。日本銀行・黒田東彦(はるひこ)総裁が「異次元の緩和」を打ち出す前の水準にまで落ち込んだ。「経済一本槍(やり)」で突き進んできた安倍晋三政権には痛手だっただろう。

 そこに、世界最大級の機関投資家GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が投資先の配分を変更するニュースが流れた。機関投資家とは、銀行や保険会社をはじめ、利用者から受け取った預金や保険料などを使って運用する会社のこと。GPIFが投資先の配分を、国内債券の比率を67%から60%に大きく下げる半面、国内株式を11%から12%に引き上げると発表したのだ。

 厚生労働省が所管するGPIFの運用原資は国民が納めた年金保険料だ。もし運用に大きく失敗すれば、年金支給にも悪影響を及ぼしてしまうかもしれない。さすがに年金の打ち切りは選ばないだろうから、結局は税金のさらなる投入につながりかねない。

 そもそもGPIFは、保険料や税金だけでは足りなくて年金給付ができず、積立金を取り崩して穴埋めしている。自分の足を食べて空腹を満たす「たこ足」のようなもので、これがもう5年も続いている。

 さらに、株式運用の拡大には、問題が大きく二つありそうだ。「人材」と「政権との距離感」である。日本株の比率を高めるならば、個別の業界や企業の分析など専門的な知識が必要になる。GPIFにはそうしたプロは少ない。GPIFで運用委員を務める小幡績・慶応大学准教授は、こう指摘する。「給与水準は運用会社と比べて非常に低い。優秀な人材を引っ張ってくるなら、このままではまったくダメです」。

 そして、政府との距離感だ。SMBC日興証券の末澤豪謙チーフ債券ストラテジストは「日本国民は預貯金を中心に資産を持つ。だから公的年金がある程度リスクをとってもいい」と指摘しながらも、「中立性は必要だ」と強調する。

週刊朝日 2013年6月28日号