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「指揮権」はなぜ発動されなかったのか? 元法相が内幕を語る

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週刊朝日

小川敏夫(おがわ・としお)参議院議員。1948年、東京都生まれ。70年、司法試験合格。静岡地裁裁判官や各地方検察庁検事をへて、弁護士に。98年に参院選東京選挙区で初当選し、現在3期目。2012年1月から野田改造内閣で法務大臣を務め、同年6月に辞任(撮影/写真部・岡田晃奈)

小川敏夫(おがわ・としお)
参議院議員。1948年、東京都生まれ。70年、司法試験合格。静岡地裁裁判官や各地方検察庁検事をへて、弁護士に。98年に参院選東京選挙区で初当選し、現在3期目。2012年1月から野田改造内閣で法務大臣を務め、同年6月に辞任(撮影/写真部・岡田晃奈)

江川紹子さん(撮影/写真部・岡田晃奈)

江川紹子さん(撮影/写真部・岡田晃奈)

指揮権発動 検察の正義は失われた

小川敏夫著
定価:1,890円(税込)

978-4023311947

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 検察官を指揮監督できる「指揮権」は、法務大臣の専権事項である。およそ1年前、この指揮権発動が幻となった背景には、真実を覆い隠す検察と官僚の影があった。野田政権で法相を務め、『指揮権発動』(朝日新聞出版刊)を書き下ろした民主党の小川敏夫参議院議員が、ジャーナリストの江川紹子(しょうこ)氏とともに「検察の正義とは何か」を語った。

 対談中に出てくる「虚偽捜査報告書」とは、小沢一郎衆院議員(生活の党代表)の資金管理団体「陸山会」をめぐる事件で、検察審査会が小沢氏について「起訴相当」議決をした後の2010年5月、東京地検特捜部の田代政弘検事が石川知裕衆院議員(当時)を再聴取した際、実際にはないやりとりを書いていた捜査報告書のことである。

*  *  *
小川:安倍政権になってから、検察改革の話をすっかり聞かなくなりました。谷垣(禎一=さだかず=法相)さんはこの間委員会で、別の議員に「虚偽捜査報告書」のことで質問を受けた際、『指揮権発動』を読んだかと聞かれて「すみません、読んでません」って言ってました。ぜひ読んで、検察改革に取り組んでいただきたい。

江川:検察は虚偽捜査報告書の問題を、いまやっている「再捜査」で終わりにしたいはずです。最高検は昨年6月、市民団体から刑事告発されていた東京地検特捜部の田代政弘元検事を不起訴(嫌疑不十分)とし、不服申し立てを受けた検察審査会は今年4月に「不起訴不当」の議決を下しました。議決書には「虚偽記載があったと言わざるを得ない」などと、かなり厳しい言葉が並びました。

小川:「不起訴不当」とは、検察にもう一度きちんと捜査をしろという意味です。再捜査の結果もそろそろ出ておかしくない。ただ、検察は起訴しないでしょう。フタをしたまま、だんまりを決め込むと思います。

江川:それで国民の関心が消えたらまずいですよ。その点でも、小川さんが今回、本を書いたことは意味があります。執筆の動機は何だったんですか?

小川:今回の問題を記録として残さなければいけないと思ったんです。本来は、法務大臣の在職中に「虚偽捜査報告書」の問題について、虚偽内容の公表をし、厳正な捜査をするように、当時の笠間治雄(はるお)検事総長に対して「指揮権」を発動しようと考えていたんです。

江川:検察が事実の隠蔽(いんぺい)をしていたんですからね。指揮権を使えば、検察の立て直しができる。

小川:過去に指揮権が発動されたのは1度きりです。1954年、「造船疑獄事件」で当時の自由党の佐藤栄作幹事長に対する逮捕状請求を無期限延期するよう、当時の犬養健(たける)法相が佐藤藤佐(とうすけ)検事総長を指揮しました。この「政治家の不正」をつぶしたような前例もあって、捜査に対して政治介入を控えるべきだという意見がずっと強かった。しかし、国民を代表する法務大臣が、検察の誤りを正すために指揮権を発動するのは当然だと思いました。

江川:それで、当時の野田佳彦総理に相談されたんですね。

小川:2012年の5月11日に総理官邸に赴いて、野田総理に「指揮権を行使しようと思っています」と伝えました。その際は了承が得られず、再度6月5日に面会が決まっていたのですが、その前日の4日に野田さんに職を解かれたんです。

江川:野田さんにはがっかりです。更迭の理由は指揮権しか考えられませんからね……。

小川:まあ、周りからはいろいろ言われましたけどね。結局、僕に指揮権を使われたら困る法務官僚が、うまく野田さんを丸め込んだんでしょう。

江川:この本には、当時の小川さんと法務官僚との会話が生々しくつづられています。小川さんが虚偽捜査報告書の問題について「重大な関心を持っている」と伝えると、幹部が言葉丁寧に「おっしゃることはわかります」と言いながら……。

小川:その場を取り繕っているだけでね。

江川:そう。実は検察のほうを向いている。

小川:この本には、「虚偽捜査報告書」そのものを掲載し、さらに石川知裕氏が録音した取り調べの反訳書全文を掲載しました。この本を読めば、何が問題かわかるようになっています。

江川:録音反訳書と読み比べれば、捜査報告書のウソが一目瞭然(りょうぜん)です。ただ、捜査報告書はもっともらしく書いてあり、それだけ読むと素人は気が付きません。しかし、司法のプロである小川さんが見れば、「プロならこういう書き方はしない」という点があると。

小川:読んだ瞬間におかしいと気付きました。特徴的なのが、書き方がまどろっこしいことです。捜査報告書は本来、検察内部で読まれるのですから、簡略化されていていいのに、小中学生にもわかるような書き方をしている。じゃあ誰に向けて書いたのか。おそらく、「素人」です。

江川:その「素人」は誰かというと……。

小川:検察審査会です。具体的には、石川氏が小沢氏に収支報告書の記載の報告をして小沢氏の了承を得た、という共謀の「事実」を信じ込ませたかった。

週刊朝日 2013年6月28日号


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