大露天風呂「大気の湯」。湯の花も豊富で、まさに大自然の中の温泉といった趣。洞窟風呂や打たせ湯、寝湯もある(撮影/写真部・時津剛)
大露天風呂「大気の湯」。湯の花も豊富で、まさに大自然の中の温泉といった趣。洞窟風呂や打たせ湯、寝湯もある(撮影/写真部・時津剛)
老舗旅館の風格が漂う入り口。高湯温泉は標高750メートルにあり、冬は厚い雪に覆われる(撮影/写真部・時津剛)
老舗旅館の風格が漂う入り口。高湯温泉は標高750メートルにあり、冬は厚い雪に覆われる(撮影/写真部・時津剛)
有田焼の陶器。館内には、代々の館主から引き継いだ貴重な調度品が多く陳列されている(撮影/写真部・時津剛)
有田焼の陶器。館内には、代々の館主から引き継いだ貴重な調度品が多く陳列されている(撮影/写真部・時津剛)
受付脇にあるラウンジ「灯」。大きな囲炉裏端で頂くコーヒーは格別の味わい(撮影/写真部・時津剛)
受付脇にあるラウンジ「灯」。大きな囲炉裏端で頂くコーヒーは格別の味わい(撮影/写真部・時津剛)

「去年の秋に番組の取材で訪れて感動しました。乳白色の高湯温泉のお湯は、温泉好きの方々の間でも高く評価されています」

 福島放送の猪俣理恵アナウンサーが手放しで称賛するのは、高湯温泉の老舗旅館「安達屋」だ。

 開湯はなんと約400年前! 伊達家の家臣、初代・菅野三四郎が夢枕に立った行者のお告げに従って山中をさまよっていると、この地の岩が砕け散り、温泉が湧き出たとされる古文書が残っているという。泉質は硫黄泉。蔵王高湯、白布高湯とともに奥州三高湯と呼ばれ、その昔はどんな病気でも3日入れば治るといわれたほどの名湯である。

 高湯温泉地区は、江戸時代から「一切の鳴り物を禁ず」という申し合わせを遵守(じゅんしゅ)し、歓楽的な開発は行わなかった。なかでも、安達屋は老舗として知られ、昔ながらの東北の湯治場の面影を残している。源泉かけ流しの白濁のお湯で温まり、囲炉裏端で岩魚や地鶏を食し、和室の畳に布団を敷いて体を休める。旅館に流れるのは、ただ静かで、穏やかな時間だけ。大広間やカラオケなど存在しない。だからこそ、この宿では本物の「上質」を味わえるのだ。

「決して派手さはないけれど、安達屋さんには、ずっと記憶に残る不思議な魅力があります。その記憶が硫黄の香りとセットになって、忘れられない思い出になるのだと思います」

 積み上げてきた歴史の“重み”が、訪れた人をホッとさせる「安心」へとつながっているのかもしれない。

週刊朝日 2013年3月29日号