事件をでっち上げて出世「検察利権」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

事件をでっち上げて出世「検察利権」

このエントリーをはてなブックマークに追加
週刊朝日

 今さら記すまでもなく、この国は官僚天国である。特に国家公務員1種試験に合格した高級官僚──いわゆるキャリア官僚は絶大な権限を持ち、退職後も外郭団体や企業への「天下り」や「渡り」を繰り返して、栄華を享受してきた。
 大阪地検特捜部の押収資料改竄事件で未曽有の激震に見舞われている法務・検察も同様だ。彼らは通常、「準司法機関」として特別扱いされることが多いものの、実のところ行政権の一翼に属する官僚組織に過ぎない。そして近年の法務・検察は、中央省庁の中でも飛び抜けて権益多き"美味いしい官庁"と化しているのだ。
 事務次官が官僚トップに君臨する他の中央省庁の秩序とは異なり、司法試験に合格した検事が組織の中枢を占める法務・検察は、検事総長を頂点とする独特の組織形態を取っている。
 その『権力序列』は、

・検事総長
・東京高検検事長
・大阪高検検事長あるいは最高検ナンバー2の次長検事

 の順となり、以下、札幌から福岡まで計6カ所の高検検事長と法務事務次官がそれに続く。
 このうち検事総長と次長検事、それに各高検の検事長を合わせた計10人は内閣が任免し、天皇の認証を受けて就任する「認証官」だ。
 一方、法務事務次官は将来の検事総長候補とされる人物が就くケースが多く、組織内における実際の力と単純比較するのは難しいが、あくまでも外形的な『権力序列』に従えば、事務次官より「認証官」のほうが格上となる。つまり、各省庁では官僚トップの事務次官が、法務・検察においては11番目の役職に過ぎない。
 従って幹部の俸給(給与)も他省庁に比べるとケタ外れに優遇されている。
 検事総長は実に国務大臣と同格(年収約3100万円)。次長検事と高検検事長は大臣政務官と同格の上、一般職の国家公務員では最高となる東大学長、京大学長と同待遇(同約2550万円)だ。検事長の中でも、東京高検検事長はさらにワンランク上をいく。
 一般にはあまり知られていないが、実は東京地検特捜部長には法務事務次官と同じ給与(同約2500万円)が与えられている。要するに、各省庁ではトップの事務次官と同レベルの待遇を受ける者が、法務・検察組織にはゴロゴロ存在していることになる。
 中央省庁の中でも法務・検察はいったいなぜ、これほどに優遇されているのか。ある検察OBが言う。
「準司法機関として政治からの中立を求められている上、公訴権を基本的に独占するという検察の役割はやはり重く、他省庁とは別格と位置づけられたのだろう。ただ、内実を言えば、司法権の砦である裁判官と横並びにしている面が大きい。同じ司法試験に合格しているのだから、裁判官より給料が安ければ検察官を志望する者が少なくなってしまう(笑い)」
 現実には行政機関の一つにもかかわらず、準司法機関と位置づけられることで得る法務・検察官僚の極度に恵まれた待遇は、退職後になってもついてまわる。特に近年は、いわゆる「ヤメ検」と称される法務・検察出身の一群が日本社会のあちこちで跳梁跋扈するようになってきた。
 つい最近のこと、高検検事長を務めた大物ヤメ検の弁護士から次のような話を聞かされ、私は溜息をついた。このヤメ検弁護士の収入に話が及んだ時のことだ。
「収入? いくつか引き受けている企業の監査役や社外取締役だけで年間3千万円は軽く超えている。検事長経験者としては、多くもなければ少なくもない、ごく平均的な額だと思うよ」
 彼が監査役などを務めるのは、社名を聞けば誰もが知っているような企業ばかりだ。しかも、実際にそれぞれの会社に出向くのは月に1、2度の役員会だけ。それでも1社あたり月額50万~100万円の報酬を得ているという。
 こうした例は枚挙にいとまがない。事実、一流とされる企業の役員名簿を眺めれば、いくつもの社の監査役や取締役に検事総長や検事長、あるいは大規模地検の検事正などを務めた『大物ヤメ検』の名を見つけ出すことができる。
 
 都心の一等地に弁護士事務所を構えている別の検事長経験者も、こんな風に打ち明けてくれた。
「弁護士としてやりがいのある仕事以外は引き受けるつもりはない。監査役などの収入で事務所は十分維持できるし、つまらぬ事件の弁護なんかやりたくもないからね。それでも先輩(の検察OB)から頼まれて断れないことは多いが……」
 そして、こうも言う。
「刑事事件の弁護では、着手金で最低数百万円は頂戴する。それでも随分と良心的なほうだ。中には着手金だけで何千万円も平気で請求するヤツもいるし、ある特捜部長経験者なんて書類を1通作成しただけで100万円取ったと聞いたことがある(笑い)」
 これは、検事長などにまで上り詰めた一部ヤメ検の話ではあるが、法務・検察内でそこまで栄達できなかったヤメ検にも、手厚い待遇は保証されている。法務省がヤメ検の『再就職口』として、公証人への『職業斡旋』を行っているのだ。
 不動産売買や遺言などに関する公正証書を作成したり、会社の定款に公的認証を与える権限などを持つ公証人は、法務局や地方法務局に所属し、全国に置かれた約300の公証役場に500人余りがいる。原則として30年以上の法実務経験を持つ者から法相が任命する公務員とされ、裁判官OBらもさることながら、検察OBにとって最大の『再就職口』となっている。
 ただし、検事長以上の役職を務めた大物ヤメ検は公証人にならないのが法務・検察内の『慣例』だ。つまり、検事長になれず60歳前後で退職した多数のヤメ検を、法務省が公証人に割り振っていることになる。
 前出の検察OBの話。
「弁護士より安定的な収入が約束されるし、何より仕事が圧倒的にラク。一度就けば最低でも5年から10年は身分保障されるから、希望者も多い。退職の時期が近づくと、どこの公証人に空きが出そうか一生懸命に調べ、『内部資料づくり』にいそしむ検事もいるし、公証人になりたいから自ら希望して検事正どまりで退職してしまったOBもいるほどだ(笑い)」
 だが、法務・検察組織の『権益』は、企業役員や公証人程度にとどまらない。ヤメ検は近年、数々の公的な機関や団体なども幅広く牛耳るようになっていた。
 金融監督庁長官、金融庁長官、証券取引等監視委員会委員長、公正取引委員会委員長、預金保険機構理事長、整理回収機構社長、社会保険庁の最高顧問……いずれもヤメ検がこれまでに務めた、あるいは現在も務めている役職の一部である。
 このほか、法務省が所管する「矯正協会」といったお決まりの天下りポストも存在する。同協会は現在会長を務める但木敬一・元検事総長に至るまで4代続けて検事総長経験者が会長に就き、最低週1回の非常勤で年間約600万円もの報酬を受け取っている。
 また、政府の審査会や役所、企業で不祥事が発生した際に設置される第三者委員会などに、多数のヤメ検がずらりと名を連ねるのも、お馴染みの光景だ。
 最近では、法務省の中央更生保護審査会や、内閣府の情報公開・個人情報保護審査会などで複数のヤメ検が委員となっているし、07年6月に発足した総務省の年金記録問題検証委員会の座長には松尾邦弘・元検事総長が就いた。
 同年1月に発覚した関西テレビの情報番組「発掘!あるある大事典2」のデータ捏造問題をめぐる同社調査委員会では、委員長を熊崎勝彦・元東京地検特捜部長が務めている。
 同じ07年にプロ野球の西武ライオンズで発覚したアマチュア選手への金銭供与問題や、旧社会保険庁で08年に浮上した労働組合の「ヤミ専従」問題をめぐる調査委員会では、いずれも東京地検特捜部OBが委員となっている。
 直近では、大相撲の賭博問題をめぐる特別調査委員会のメンバーに、村山弘義・元東京高検検事長が就いたのが記憶に新しい。村山氏は結局、同委員会の推薦で相撲協会の副理事長職に収まった。
 これらはごく一例に過ぎず、大物ヤメ検が調査委員会などのメンバーとなった場合、息のかかった『子飼い』のヤメ検を引き連れていくケースが多いから、「ヤメ検軍団」が享受する恩恵はさらに裾野が広がる。
 在職中は他省庁より抜きんでた待遇が約束され、退職後は各種の公的機関や企業、メディア、スポーツ界に至るまで、まるで日本を支配するかのような勢いで増殖し、幅を利かせるヤメ検──。これほど法務・検察出身者が引っ張りダコとなっているのはなぜか。
「近年の『コンプライアンス(法令順守)』の大合唱で、特に、企業や公的組織は極めて神経質となっている。その点、検察OBは刑事事件に精通した法律家であり、何よりも『正義』『公正』のイメージが強いから引っ張りダコになるのです。対外的に一種の権威付けにもなっている面もあるでしょう」(別の検察OB)
 しかし、大阪地検特捜部を舞台に発覚した今回の改竄事件で、検察が「正義」「公正」を顕現しているなどという神話の化けの皮は、完全に剥がれた。
 元大阪高検公安部長の三井環氏は、こう言う。
「特捜検察が摘発してきた事件は、常に企業や公的組織が捜査対象です。特に最近は、バブル崩壊後に破綻した金融機関やライブドア事件などの捜査を次々手がけ、証券監視委や公取委にも検察の影響力が極めて強まっている。企業や公的組織にとって、法務・検察は怖い存在でしょう。でも、大物ヤメ検を抱き込んでおけば、検察に睨みが利くし、恩を売ることもできるから、さまざまなところで重宝される。いわば『用心棒』みたいなものです」
 だとすれば、「正義」「公正」の仮面を被って歪みきった捜査に突き進み、その強面ぶりで急速に権益を拡大させてきた法務・検察出身者の跳梁跋扈をどう評すればいいだろうか。
 権力ゴロ──そんな呼称こそ、ヤメ検と称される一群には相応しいように思えて仕方ないのだ。

*  *  *
あおき・おさむ 1966年、長野県生まれ。慶応大卒。共同通信記者として社会部で警視庁警備・公安担当、ソウル特派員、外信部などを経て2006年からフリー。主著に『日本の公安警察』『北朝鮮に潜入せよ』『絞首刑』(いずれも講談社)などがある

週刊朝日


トップにもどる 週刊朝日記事一覧

続きを読む

関連記事関連記事

このエントリーをはてなブックマークに追加
あわせて読みたい あわせて読みたい