動画が撮影された時期も、公共性の利益を判断する上で重要だという。

「昨日、今日の事件でしたら社会情勢でかなり必要性は高いですが、数年前に起きた事件を掘り起こすことで、犯罪の重さと照らし合わせて個人情報をネット上でそこまでさらす必要があるのかという見方が出てきます」

 ネット上で個人情報が世界中に拡散されてしまうと、完全に削除するのは難しい。「デジタル・タトゥー」と呼ばれる問題だ。蓮池弁護士は「年月が経っても自分が逮捕されたり起訴されたりした記事が名前をネット上で検索すると出てくる。『削除できないか』という相談内容は多いです。事件からどれだけ経過したか、事件の重さで対応を判断しますが、情報が一度拡散されると、誰でも保存できるので、時間が経過した後にまた拡散される時がある。いたちごっこになってしまうのが問題です」と明かす。 

 痴漢の被害現場を撮影して、SNS上で配信している動画に対しては、様々な意見がある。ネット上には「痴漢はダメって言うのは前提として、自分がもし全く知らん人に動画とられてたと考えたら怖すぎ」、「その気持ちは否定しないけど盗撮してYouTubeに上げたのは結局困ってる人のためじゃなく行動に移す勇気がなかった自分の弱さをごまかす為の自己満足でしかないのは自覚したほうがいい」というコメントが。一方で、「行動しろってみんな言っといて実際行動した勇気ある男子高校生がボコボコにされた事件を知らないのか。不確定情報の中行動するってのは世の中一番難しいことなんだよ」という指摘もみられた。

 痴漢の被害現場を見たら被害者を助けるために注意するのがベストだが、加害者に暴力を振るわれる危険性がある。犯人検挙のために、犯罪行為の証拠となる動画を撮影する行動を全否定できないという見方も一理ある。

  ただ、動画を撮影することと、ネット上で配信することを切り離して考える必要はあるかもしれない。

  蓮池弁護士はこう語る。

「動画をネット上で拡散したり、家族構成などの個人情報をネット上に掲載することで、加害者だけでなく、加害者の家族からも民法の不法行為で訴えられるリスクがあります。警察や駅員に痴漢犯罪の一部始終を捉えた動画を提出することが、一番良い方法だと思います」

  スマホがあれば、動画の拡散は指一本でできる。だが、その行為は人を傷つける動きに加担していないか――。「ネットリンチ」は無自覚なケースが多いことを、認識しなければいけない。(今川秀悟)