過熱する中学受験の闘いを見据え、わが子の入塾を急ぎ、受験勉強へと向かわせる保護者も少なくない。ところが、通塾するうちに、子どもの暴言・暴力が増えるケースがある。一体何が原因なのか。AERA dot.連載「偏差値にとらわれない中学受験相談室」でもお馴染み、探究学習の第一人者で「知窓学舎」塾長の矢萩邦彦さんが、新著『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)で説く、主体的に学ぶことの大切さとは?

MENU ■6年生で受験を決意しても遅くない  ■「やらされる受験勉強」がもたらすマイナスの影響

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■6年生で受験を決意しても遅くない

 中学受験や将来の進路について親子で話し合う際には、子どもの脳の発達段階を考慮する必要があります。

 受験するのは子ども本人ですから、自分の意思や希望で決めることが理想ではあります。ただ、一般的な発達段階から考えれば、小学生は目の前にあることで判断したり「今」興味があることへ情熱を向けることは得意でも、それがどう将来に結びつくかは実感できません。ですから、その決断には親の意向が影響するのが現実です。

 6年生くらいになればものごとを抽象化する力がある程度ついてくるので、今と未来を結びつけて進学について自分で考えることができる場合もありますが、このタイミングで「受験したい」となっても、6年生での入塾は進学塾のスケジュールから外れるため、受験対策しづらい傾向にあります。こうした受験システムの構造上、本人の意思にゆだねられる時期まで受験するかどうかの判断を待てないのはジレンマだとも言えます。

 知窓学舎では、席さえ空いていればいつのタイミングからでも入塾できますが、大手の進学塾では6年生の入塾を断るケースもあります。入塾が遅ければ遅いほど、塾のカリキュラム上、ケアできなくなるからです。成長に合わせて進路を選びたいと考える保護者も増えてきた中で、塾のこうした戦略はもはや時代遅れと言っていいでしょう。

 実際、知窓学舎には「他の塾で断られたから」という理由で6年生の後半に入塾してくる生徒がいますが、必ずと言っていいほど、突然、本人が自ら受験したいと言い出して、親が焦って駆け込んでくるパターンです。

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矢萩邦彦
中学受験塾塾長 矢萩邦彦

やはぎ・くにひこ/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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