これまでブレイン・フォグはコロナ感染者の後遺症として認識されてきた。ノースウェスタン大の調査によると、発熱やせきなどの軽症で治った患者の81%がブレイン・フォグと診断されたという。医学雑誌『ネイチャーメディシン』に出た論文では、61歳以上で24%、16歳から30歳で11%に記憶障害が出たという研究結果もあり、幅広い年齢にリスクのある後遺症だ。

 今回の「ゾエ」の数字は後遺症ではなく、病気になり始めの時期での症状だ。この数字について、専門家はどう見ているのか。脳神経内科学が専門の岐阜大の下畑享良教授は、こう語る。

「急性期(病気になり始めの時期)に、4人に1人という大きな割合になっているのは驚きです。これまでブレイン・フォグを急性期に訴える人は極めて少なかった。イギリスでオミクロン株が発生したのが先月18日で、まだ確定的な判断は難しいですが、この症状が長期持続するなら、今後ブレイン・フォグの後遺症で苦しむ人が増える可能性がある。社会的に非常に大きな問題になると思います」

■「ブレイン・フォグ」三つの可能性

 なぜオミクロン株でブレイン・フォグが多いか。下畑教授は三つの可能性を指摘する。

 一つ目が、従来のデルタ株は発熱や呼吸困難など症状が重かったが、オミクロンは軽症で済むため、ブレイン・フォグのような症状にも気がつきやすくなった。

 二つ目が、ブレイン・フォグが世間に知られていなかったが、報道などで周知された結果、一般の人も自分の症状をブレイン・フォグと認識するようになった。

 三つ目が、実際にオミクロン株は脳の障害をきたしやすく、その結果、ブレイン・フォグが多くなっている。

 この中で恐ろしいのは、三つ目の可能性だった場合だ。この可能性を疑う要素はある。下畑教授はこう警鐘を鳴らす。

「頭痛の症状を訴える人は、従来のデータでは10%台でしたが、ゾエのデータでは68%とかなり多い。上位にある鼻水、くしゃみ、喉の痛みなどの症状を見ると風邪やインフルエンザと同じように見えますが、頭痛や疲労感、ブレイン・フォグの割合が高く、今までの特徴と違う。この点は正直、不気味です。まだオミクロン株の脅威が見極められていない現状では、『オミクロンは軽症』という話を鵜呑みにせず、感染防止とワクチン接種を行うことが重要だと思います」

 ブレイン・フォグの後遺症で苦しんでいる人は多い。ブレイン・フォグの治療を行う東京TMSクリニックの田中奏多院長はこう語る。

「経営者の方で『頭がボヤッとして考えられない。決断ができなくなってしまった』と苦しんでいる人がいます。仕事の効率が落ち、労働時間が長くなっている人もいる。疲労感や集中力の低下といった症状は、単なる疲れと考え、コロナの後遺症に苦しんでいると気づいていない人も多いです」

(AERAdot.編集部・吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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