加山雄三のモノマネ芸人であるゆうぞうが『サライ』を歌うべくゴールで待ち受けているところに、谷村新司に扮した木梨が加わった。「噂によると(石橋が)独り暮らしって聞いてるから。焼きおにぎりをね、ゴールしたらプレゼントしようかなと」と言って、石橋が離婚したことをネタにしてみせた。

 結局、石橋は完走しないまま車に乗って逃げてしまうというオチになり、動画の中で2人が対面することはなかった。だが、実質的に久々のコンビでの共演を果たした形になったため、この動画は大いに話題になった。

 今回の動画を見て私が思い出したことがある。2011年3月3日放送の『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)で、木梨の誕生日を祝う企画が行われた。おぎやはぎの小木博明が案内人を務めて、木梨をいろいろな場所に連れて行った。IKKO、楽しんご、バナナマンの日村勇紀などが祝福の言葉を贈っていた。

 木梨たちが最後に訪れたのが、綾小路翔が経営するサパークラブ『masurao』だった。ここで小木が「ノリさんに一番喜んでもらえるサプライズを用意しました」と宣言して呼び込んだのは、シャンパンを片手に持った石橋だった。

 まさか相方がここで出てくるとは思わなかった木梨は、驚きのあまりキョトンとした表情を浮かべて、「タカ、来たの?」とつぶやいていた。

それまで石橋は、照れくさくて木梨の誕生日を祝ったことは一度もなかったのだという。だからこそ、木梨も心底驚いていたのだ。

 今回、木梨が石橋のYouTubeに出たのは、その時のお返しというふうに見ることもできる。とんねるずとしてのレギュラー番組がなくなり、共演する機会も減っているとはいえ、こうやって軽やかに不仲説を逆手に取って人々を楽しませることができる彼らが、本当の意味で仲が悪いとは思えない。

 お笑いコンビの理想とは、2人が向き合っていることではなく、2人が同じ方向を向いていることだ。純粋に見る人を楽しませたいというエンターテイナーとしての志を共有するとんねるずの2人は、そんな理想を体現する存在なのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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