野崎さんが死亡してから、法要が自宅で執り行われた時のことだ。須藤容疑者が仏前に供えていたのがサンドイッチだったという。

 資産家の野崎さん、生前約20億円という資産を残していたとされる。野崎さんと50年近い付き合いがある友人は亡くなる1週間前に野崎さんに会ったという。友人がこう振り返る。

「子供の頃から体は弱かった、幸助。顔色が悪かった。小便でズボンに漏らして、しんどそうだった。ああいう姿は初めてでした。そこで嫁さんとはどうしてるんやと聞くと、大丈夫やと言っていた。しかし、あんな若い嫁さんやろ。苦労しているのかと思い、医者に行くように勧めて別れた」

 この友人のところにも和歌山県警が何度も事情を聞きにきた。

「幸助に『遺産はいくらよ。どうするんよ』と聞いたことがある。すると、愛犬のイブちゃんにやろうかと言っていた。須藤容疑者とは幸助の会社で2度、会った。若い嫁さんでビックリや。『北海道出身です』と話していた。色白で派手な感じの女性でした。幸助は嬉しくてたまらないようでした。しかし、幸助はこれまで若い女性を和歌山まで連れてくるが、すぐに逃げられる。和歌山に来るまでは、すごくカネを貢ぐ。しかし、来れば、渋ちんになり、20万円程度しか渡さない。それで、話が違うと逃げられる。須藤容疑者も同じで和歌山に来てケチられたんやないのか。遺産を渡したいと言っていた、愛犬のイブちゃんが先に亡くなった。そして、幸助です。幸助の巨額の遺産をもらえる人が次々に亡くなる。警察も『須藤容疑者の情報があればなんでも教えてくれ』と言っていました」

 生前、記者も何度か取材で野崎さんと会う機会があった。

「また若い彼女ができた」と自慢しては、「また逃げられた」と意気消沈していた。急死する1年ほど前にあったのが最後だった。足腰が弱っていたのか、よちよち歩きのような格好だったが、「若い娘と金儲けに興味がなくなったら、わしは終わりや」と言葉は元気いっぱいだった。

 前出の捜査関係者がこう話す。

「覚醒剤取締法違反でやって再逮捕で殺人とせず、いきなり本件でいったのは、物証に自信があるからです。自供なしでも公判が維持できるくらい証拠を集めた。カレー事件同様に、混入できたのは、須藤容疑者しかいない、という手法で立証可能。否認は想定済みでゴーサインが出た」

 天国で野崎さんは何を思うのだろうか?(今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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