「心身が限界を超え、夫に手をあげてしまったこともあります……」

 身内もいない、友だちもいないなかで、うつ状態はますます悪化し、ついにたまきさんは自殺未遂をはかってしまう。

「もちろん、そんなことをした私が悪いんです。でも、夫は心配してくれるどころか『子どもの前で自殺しようとするなんて虐待だ』と。その心無い言葉にショックを受けました」

 たまきさんは、子どもを連れてしばらく実家に帰りたいと思った。自分の精神状態が安定する場所で子どもを育てたいと思ったからだ。それで、夫に懇願した。でも、夫は2週間という縛りをつけてきた。

「本当に辛くて心からお願いをしたのに、むげにされたことで、私は夫に対して心を閉ざしてしまいました」

——子育てが辛いなら、子どもと離れて静養すればいい——夫の提案が、たまきさんには冷たく響いた。我が身を削って産んだ子と離れられるわけ、ないじゃない!

「ただただ、自分が安心できる場所で子育てをしたかった。それを両親に相談したところ、『連れ去り』となる計画が立ち上がっていきました。相談の過程で『夫には一生子どもを会わせない』などと言ったことはあったかもしれませんが、実際は子どもと父親を引き離すつもりはなかったんです」

 実は、その年のお盆に帰省した際、そのまま関西には帰らずにいようと思っていた。しかし、その不穏な空気を察知したのか、子どもに自家中毒のような症状が現れてしまう。

「ふだんは元気な子なのに、嘔吐が止まらなくなって……。パパが一緒にいないことを不安がって『パパはどこ?』としきりに聞くのを見て、両親がそろっていない環境は、子どもには負担が大きいのだと思いました。子どものことを思い、そのときはいったん『連れ去り』を諦め、関西に戻ることにしたんです」

 もう一度、関西での暮らしをがんばろうと思い直したたまきさんだが、その気持ちは長くは保てなかった。

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「連れ去り」の背景には過剰な被害妄想