●番記者の異様さ

 一番嫌だなあと思ったのが、菅さんの出馬会見での出来事だった。東京新聞の望月衣塑子さんが記者会見のあり方を質問したら、司会者から質問が長いと注意が入り、菅さんは「早く結論を質問してくれれば、時間は浮くのであります」と皮肉でかわした。その時、一部の記者たちから笑いが起きた。菅さんにこびを売る笑いで、気持ち悪かった。

 記者のあり方とは一体何か。どこを向いて仕事をしているのだろう。私は望月さんの考えに必ずしもすべて共感できる訳ではない。でも、あんな笑い方はないだろう。いじめみたいな空気で寒気がした。象徴的だったのが、笑いが起きたのは前の3列だったことだ。主に番記者たちが座る席だ。私は真ん中ぐらいにいたが、真ん中や後ろからは笑いは起きなかった。普段は会見に入れない私も含め、あの姿に違和感を覚えた人はたくさんいたはずだ。たしかに、望月さんの質問は長かった。でも、望月さんと同じぐらい長かった人もいたけど、注意はされなかった。

 政治部の記者が多いから仕方ないのかもしれないが、現場の取材から見えた問題を質問する記者が少ないことも気になった。現場はこう困っている。それをあなたなら、どう変えるのか。有権者がマスコミに求めることはそういうことではないだろうか。マスコミが現場取材をしていないかといえば、決してそんなことはない。ただセクショナリズムの問題だ。そういう現場の問題意識を持つ記者も会見にきて、質問をしてほしい。女性記者がたくさん来て、女性活躍にまつわる質問をたくさんして、意識や文化が変わればいいと思った。

●何度聞いても「国家のあり方」がわからない

 候補者とのやりとりで、私が一番問題だと感じたのは、国家のあり方が何度聞いてもわからなかったことだ。菅さん、岸田さん、石破さんの3人が理想とする国家像の違いが全然わからない。日本の何に憂い、日本の何に可能性を感じ、それらをどうしたいのか。菅さんが言う「デジタル庁」「携帯電話料金の引き下げ」「不妊治療の保険適用」はどれも、議論が必要だろう。だがしかし、自民党の総裁を決める場で語る国家像としてはあまりにも、空虚だ。私はベンチャー企業の社長でもあるが、社長はストーリーテリングをして、とにかく仲間を増やさないといけない。現代をどんな社会だと捉えていて、どんなサービスが必要で、どんな価値を提供するのか。それを語れないとスタッフはついてこない。

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候補者の言葉がまったく響かない