いくつもの問題点が露呈し、「身の丈発言」が批判を呼んだ大学入学共通テストへの英語民間試験導入。多くの教育関係者を混乱に陥れたが、高校現場での受け止め方はさまざまだ。現場を知る高校教員に、これまで、そしてこれからの英語教育について語ってもらった。「AERA English 2020 Spring & Summer」(朝日新聞出版)より紹介。

■英語教育を学習指導要領の目標通りに
下村 明さん(千葉県立成田国際高校英語教員 ※取材当時)

 本校は英検2級の取得を目標にしており、ほとんどの生徒が卒業までに合格します。そのため共通テストに4技能試験が導入されても、慌てる生徒は少なかったと思います。授業で特別な4技能試験対策は行いません。おもに教科書を使って4技能をバランスよく養うことを実践しています。英文を読むときは、その後に自分の意見を言ったり書いたりする時間を持たせるようにします。

 入試は、英語の授業で身についた4技能を測るものになっているのが理想ですが、現状はそうなっていません。そのため多くの生徒にとって英語はただの受験科目の一つに過ぎません。学校の英語教育を4技能に変え、それに合わせた大学入試にすべきでしょう。 

 現在、高校の英語には「英語表現」という科目があります。その名の通り英語で表現することがねらいですが、実質、文法を説明するだけの授業になっている学校も多いようです。全国の高校で2022年度から学習指導要領が変わり、「論理・表現」に変更されますが、目標にある通り、「話す」「書く」能力を育成する科目にする必要があると思います。
    
(しもむら・あきら/大学卒業後、インドの民間の学校で日本語教師を務めたあと、日本で英語教員に)

■4技能教育で一番伸びるのはリーディング力
布村奈緒子さん(東京都立両国高校英語教員)

 今回の民間試験導入の延期で、4技能教育への機運が下がってしまったことが残念です。2月は次年度の教科書、副教材の選定時期ですが、昨年までに4技能対応の教材に変えたのに、元に戻す判断をしている学校も多いと聞きます。特に進学校の場合、副教材はすべて受験対策本という学校が少なくありません。それほど高校の英語教育への大学入試の影響は大きいのです。

 本校は中高一貫校になる2006年から、まず中学で、英語の授業を英語で行うことを始めました。そして、その2期生が高校に上がるときに、単位の半分は4技能を養う授業に変えました。受験の問題集を多読用の英語の本に変え、受験対策の時間をプレゼンやスピーチ、エッセーを書くことに費やしました。その学年は近年で最もよい大学合格実績をあげ、そうした授業でも大学入試に通用することが証明されました。

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稲田砂知子
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