4技能養成中心の授業で一番伸びるのは、実はリーディング力。逐語訳する癖がなくなり、英語のまま理解しようとするので読解スピードが上がります。また、それについて自分の意見を言ったり書いたりする目的があるので、しっかり読もうという意識も高まる。もちろん大学受験のためにこうした授業をしているのではなく、卒業後、英語が必要になったときに堂々と使えるようになってほしいという思いからです。

 ただ、従来の訳読方式の授業をしてきた先生方が、授業を変えるのは難しく大変なことです。この話を突き詰めると、教員の「働き方改革」に行き着きます。部活や学校行事、生徒指導など教員の仕事が多すぎて、授業の準備をする時間を取れない現状があります。教員の一番大切な仕事は授業づくり。それに時間をかけられる労働環境に改善されることを望みます。

(ぬのむら・なおこ/銀行員、オーストラリア留学を経て英語教員に。「教えない授業」を提唱。2009 年から同校に勤務)

■4技能を学ぶ環境の格差がまだまだある
萩原聡さん(全国高等学校長協会<全高長>会長 東京都立西高校校長)

 全高長を代表し、文科省の「大学入試のあり方に関する検討会議」に一委員として出席しています。これまで通り大学入試の公平公正性や、変更点などは2年前までに周知する「2 年前ルール」の徹底などを訴えていきたいと考えています。

 以下は私見となります。大学入試の前に、高校までの英語教育についての議論の必要性を強く感じています。4技能教育、コミュニケーションのための英語力養成については10年以上前から言われてきました。しかしその成果はなかなか見えていません。それを、大学入試を変えることで実現させようというのでは、手段と目的が逆だという指摘にもうなずけます。

 私が校長を務める都立西高ではオンライン英会話や短期海外研修、ディベートの授業などを積極的に取り入れ、4技能教育に力を入れています。しかし、全国を見渡すとそうした環境を得られない高校は多くあります。今回、受験料における経済格差の問題も指摘されましたが、英語学習の環境の格差もあるのです。

 また、すべての高校生が大学に行くわけでなく、共通テスト受験者となるとさらにその数は限られます。大学入試とは切り離して、高校卒業時にどういう英語力が必要なのか。また小学校で英語が教科になりますので、小中高と連携した英語教育について議論を深めることが必要でしょう。

 そうしたことを置いておいて、民間試験を活用すれば英語の4技能が伸びるというのでは、民間に教育を任せてしまうことになります。高校までの英語教育をしっかり完結させ、大学がその力を入試で測りたいのであれば、その方策を考えていく。これがあるべき姿だと思います。

(はぎわら・さとし/ 2018年から同校校長、19年から全高長会長を務める。19年、全高長は民間検定試験導入についての要望書を文科省に提出)

(構成/稲田砂知子)

※「AERA English 2020 Spring & Summer」から抜粋

AERA English (アエラ・イングリッシュ) 2020 Spring & Summer【表紙:山下智久】[雑誌] (AERA増刊)

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稲田砂知子
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