レッド・ゾーンとグリーン・ゾーンというんですけど、ウイルスがまったくない安全なゾーンと、ウイルスがいるかもしれない危ないゾーンというのをきちっと分けて、そしてレッド・ゾーンでは完全にPPE(個人用防護具)という防護服をつけ、グリーン・ゾーンでは何もしなくていいと。こういうふうにきちっと区別することによって、ウイルスから身を守るというのは、我々の世界の鉄則なんです。

 ところが、ダイヤモンド・プリンセスの中は、グリーンもレッドもグチャグチャになっていて、どこが危なくて、どこが危なくないのかまったく区別かつかない。

 どこにウイルスが、ウイルスって目に見えないですから、完全な「区分け」をすることで初めて、自分の身を守るんですけど。もう、どこの手すりと、どこのじゅうたん、どこにウイルスがいるのかさっぱり分からない状態で、いろんな人がアドホック(その場その場)にPPEをつけてみたり手袋をはめてみたり、マスクを着けてみたり、着けなかったりするわけです。

 で、クルーの方も、N95(ウイルスの吸入を防ぐ医療用マスク)を着けてみたり、着けなかったり、あるいは熱のある方が、自分の部屋から歩いて行って医務室に行ったりするというのが、通常で行われているということです。

 私が聞いた限りでは、DMATの職員、それから厚労省の方、検疫官の方がPCR(感染の有無を調べる遺伝子検査)陽性になったという話は聞いていたんですけど、それはもう「むべなるかな」と思いました。

 中の方に聞いたら「いやあ、自分たちも感染するなと思ってますよ」というふうに言われてびっくりしたわけです。どうしてかというと、我々がこういう感染症のミッションに出る時は、必ず自分たち、医療従事者の身を守るというのが大前提で、自分たちの感染リスクをほったらかしにして、患者さんとかですね、一般の方々に立ち向かうってのは御法度、ルール違反なわけです。

 環境感染学会やFETPが入って数日で出て行ったっていう話を聞いた時に、「どうしてだろう」と思ったんですけど、中の方は「自分たちに感染するのが怖かったんじゃない」というふうにおっしゃっていた人もいたんですが、それは気持ちはよく分かります。

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船を降りたあとは自らを隔離