■メスにおちんちんがある昆虫を発見!
昆虫の交尾は、オスが交尾器を出して、メスの腹にある生殖器に入れ、精子を送り込むのがふつうだ。ところが、ブラジルの洞窟にすむトリカヘチャタテという昆虫は、なんとオスではなくメスにおちんちんのような交尾器があり、それをオスの体内に入れることがわかった。そして、オスの体内にある、精子と栄養分を、ストローのような細い管を通して受け取るのだという。オスが持っているプレゼントを無理やり奪い取るようなものだ。奇妙な生態は、北海道大学の吉澤和徳准教授、慶應義塾大学の上村佳孝准教授らによって明らかにされ、2017年のイグ・ノーベル賞(※)生物学賞に輝いた。トリカヘチャタテのすむ洞窟には栄養が少なく、メスはオスからプレゼントされる栄養が何にも増して重要だ。だから、メスが積極的になり、このような体のしくみに進化したのだと二人は考えている。
オス・メスが逆転しているようなトリカヘチャタテだが、それでも、オスからメスにプレゼントが贈られていることに変わりはない。一方、人間の場合には、バレンタインデーのように、女子から男子へプレゼントを贈ることもある。では、昆虫のなかにも、メスがオスにプレゼントをする種類はいないのだろうか? 上村准教授に聞いてみたところ、「まだ見つかっていません」との答え。「オスの子を産んであげる私がなぜ、プレゼントまであげなきゃいけないの?」。昆虫のメスたちから、そんな声が聞こえてきそうだ。
※イグ・ノーベル賞=人々を笑わせ、考えさせる研究や業績に贈られる世界的な賞。1991年に創設され、物理学、平和、医学、生物学など毎年10の部門に贈られる。授賞式はアメリカのハーバード大学で行われ、日本人の受賞は2017年で11年連続となる。
【トリカヘチャタテとは?】
ブラジルの洞窟にすむ昆虫。米などに発生する、日本でも身近なチャタテムシの一種。体長3㎜程度。男女の性が入れ替わる平安時代の古典『とりかへばや物語』からこの名がつけられた。そのため「トリカエ」ではなく旧仮名遣いで「トリカヘ」となっている。
※月刊ジュニアエラ 2018年2月号より