世界でいちばん権威があるといわれるノーベル賞。どうしてこれほど大きな話題になるのか。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞編集委員・上田俊英さんの解説を紹介しよう。

上田俊英(うえだ・としひで)先生/朝日新聞編集委員。専門は原子力・エネルギー政策、科学技術政策。科学記者として、ノーベル賞にかかわる記事を多数執筆している(撮影/写真部・岸本絢)
上田俊英(うえだ・としひで)先生/朝日新聞編集委員。専門は原子力・エネルギー政策、科学技術政策。科学記者として、ノーベル賞にかかわる記事を多数執筆している(撮影/写真部・岸本絢)

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 ノーベルは、自分がつくったダイナマイトが戦争で使われたことに心を痛め、賞をつくりたいと願ったといわれる。そして、遺言のなかで、国籍にかかわらず世界中から賞が選ばれることを特に強く望んでいる。今ではそうした賞はいくつもあるから、特別なことではないと思うかもしれない。でも、実は、そんなふうに国境を超えて贈られた賞は、ノーベル賞が初めてなんだ。当時、ヨーロッパの国々は世界各地に植民地を持ち、勢力を広げようと激しく争っていた。でも、そんなときだからこそ、国境を超えて賞を贈ることが世界の平和につながると、ノーベルは考えたのだろう。

 ノーベルの平和への思いは、死後100年以上たった今も受け継がれている。2015年に医学生理学賞を受賞した大村智さんは、フィラリアなどの病気の画期的な治療薬を開発した。フィラリアは、アフリカなどの特に貧しい地域で猛威をふるっている病気だ。そんな人たちの命を救い、貧困から抜け出す力になったからこそのノーベル賞なのだ。

 14年に物理学賞が贈られた青色LEDの開発も、電気が通じない地域で暮らす人たちに恩恵をもたらしたことが評価されている。

 ノーベルの思いが、今もちゃんと受け継がれているからこそ、ノーベル賞は国境だけでなく時間も超えて、世界で最も権威がある賞として、世界中から評価されているんだよ。

(監修/朝日新聞編集委員・上田俊英)

※月刊ジュニアエラ 2016年12月号より

ジュニアエラ 2016年 12 月号 [雑誌]

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AERA dot.編集部
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