デザインを見た田中さんの第一声は「まじっすか」。包丁の刃に模様を描くのはよくあるが、ロリータ包丁もゴスロリ包丁も、通常ではありえない、刃の上部に模様が飛び出したデザイン。「できるか分からないけど、やってみます」と持ち帰り、悩みながら試作を繰り返すこと約4カ月、ついに試作品を完成させた。デザイン画を再現しただけでなく、切れ味も鋭い刃だ。

 プロモーションにもこだわった。匠工芸のスタッフの女性2人の協力を得て、ロリータとゴシック、2つの包丁のイメージを擬人化。ロリータのラピンは白と淡いピンクを基調にしたフリフリのドレス、ゴシックのジュリエットは黒いレースをふんだんに使ったドレスを着た女性。「お料理をするたびに夢の世界へ」「チョウが宿った刃と、まるでスカートのようなレースで暗黒の円舞曲を奏でます」。2つの包丁に込めた世界観をよりイメージしやすくしたのだ。

 そうして世に送り出した包丁は、たちまち注目を集めた。手作りのため、ラピンは1本16万8000円、ジュリエットは1本19万8000円となかなかのお値段(いずれも税込み)だが、16年8月までで、2つ合わせて11本の注文を受けたという。代金の5割を振り込むと製作に着手するのだが、ほとんどの人が、注文の翌日に振り込むそうだ。現在は注文から発送まで、3カ月ほどかかるという。

 折井さんによると、日本国内だけでなく、海外からの反応も良いという。16年7月、米ロサンゼルスで開催された日本のアニメイベント「アニメエキスポ」で、フィギュアやプラモデルなどを扱う日本の会社のブースに2つの包丁を出展したところ、来場者に「クレージーだな日本人は!」と喜んでもらえた。3人からは、その場で「買いたい」と言われた。このため、16年10月末からは、前述の会社がロサンゼルスで展開する店舗で購入できるようにする予定だ。

 折井さんは「海外で『日本すごいな』と言われたいし、もちろん日本の人にも本気のものづくりの良さを知ってもらいたい。世界で通用させたい」と意気込む。リオデジャネイロ五輪の「安倍マリオ」が話題を呼び、日本のポップカルチャーが海外から注目されている今、ロリータ包丁も時流に乗ることができるのか。注目したい。(ライター・南文枝)