私は高齢の叔母をケアするため、昨年、叔母の家の近くに引っ越してきた。
 一人暮らしの叔母の家には2匹のがいた。17歳を超えた家猫「ふく」(写真、雌)と、元野良猫で誰彼なくすり寄っていく世渡り上手な「ちゃろ」だ。
 今年1月、叔母が認知症で施設に入ると、「ちゃろ」は自ら別の飼い主を見つけて出ていった。
 一方、「ふく」は極度の臆病猫で、飼い主以外の人間には懐かない。以前、私が泊まりがけで遊びに行くと、私が帰るまでずっと縁の下に隠れていたくらいだ。
 このままでは「ふく」が餓死してしまう! 私が毎日餌をやりに行くしかない。わが家には犬がいるので、「ふく」を連れ帰ることができないのだ。
 空腹には勝てないのだろう。「ふく」はかなりの距離を置いて姿を現すと、ニャーと鳴いた。そのくせ近づくと逃げるので、皿にキャットフードを入れるとすぐに帰るようにしていた。
 やがて、彼女の左目から絶えず涙が流れていることに気づいた。早く目薬をさせるまでに心を許してもらわなくてはならない。
 遠くに置いていたキャットフードの皿を少しずつ引き寄せ、私のそばで食べさせるまで1カ月かかった。
 体に触れようとすると跳び上がるほど驚いていた「ふく」が、尻尾を立てて私にすり寄ってくるまで2カ月。そして3カ月が過ぎた頃、遠慮がちに膝に乗ってきた。ゴロゴロとのどを鳴らし、前足で私の膝を踏み踏みする。
 人けのない、風が吹けば戸がガタガタ音をたてる古くて広い家で、たった一匹でいる。その心細さを思うと不憫で涙が出そうだ。
 まだ少し私に警戒心を残している「ふく」。彼女とのさらなる信頼関係をどう築いていこうかと、試行錯誤の日々なのだ。

(星川千里さん 愛知県/68歳/主婦)

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