一方で、廃業を決意した望月さんの工場を欲しがった人たちもいる。新興国のなかでも新たな「世界の工場」として注目を集めるベトナム人だった。
「業者に機械の買い取りをお願いした時、見積もりを出してきたのはベトナムやパキスタンなど東南アジアの新興国の人ばかり。今は中国や韓国よりも、東南アジアの方が日本の技術や機械を欲しがっているんだね。ウチの機械も最後はベトナム人が600万円で買い取って、そのままベトナムに輸送した。機械は今でもちゃんと使えるものだけど、日本人で買いたい人はいなかった」(同)
日本の中小企業の技術や機械設備が、あっさりと海外に流出する。なぜ、こんなことが起きるのか。中小企業の経営に詳しい東京商工リサーチ情報本部長の友田信男氏は言う。
「東南アジアの新興国は、自国の経済発展に合わせて日本の中小企業の技術を欲しがっています。日本人が、何十年もかけて培ってきた知識や技術、機械設備が現金で買えるなら安いものだからです。一方で、日本人には中小企業の技術が国外に流出していることへの危機感が弱い。技術がちゃんと後世に引き継がれなければ、日本のものづくり産業は“焼け野原”になりかねません」
経済産業省の分析では、日本の中小企業のうち127万社が後継者不在で「廃業予備軍」の状態にある。2025年には6割以上の経営者が70歳を超え、「大廃業時代」を迎えるとの指摘もある。
東京商工リサーチの「授業経営の継続に関するアンケート調査」によると、廃業を考えている中規模法人のうち、売上高で経常利益が出ている企業は64.8%にものぼる。なかには10%以上の利益率を持つ企業も3.4%いた(表参照)。
廃業を考えている理由のトップは「業績が厳しい」(37.3%)だが、「後継者を確保できない」(33.3%)が続く。なかには「従業員の確保が困難」(17.3%)、「技能等の引き継ぎが困難」(14.7%)など、経営の悪化とは関係のない理由も目立つ(表参照)。