さらなる高みを目指して進化を続けるサニブラウン(写真:getty Images)
さらなる高みを目指して進化を続けるサニブラウン(写真:getty Images)

 史上最速のウサイン・ボルト(ジャマイカ)が持つ決勝進出最年少記録18歳11カ月を6カ月更新して臨んだ、初めての頂上決戦はほろ苦い味だった。

 陸上世界選手権の男子200メートル決勝に日本人では2003年の末續慎吾以来、7大会、14年ぶり2人目の決勝進出を果たしたサニブラウン・アブデル・ハキーム(東京陸協)。前半は先頭争いをしたものの、大会中に違和感の出ていた右太もも裏が「ちょっと来ちゃって」直線に入ってからずるずると後退し、20秒63の7位に終わった。

 直後のテレビのインタビューでは「あそこからもう一段階上げていれば、本当にメダルに食い込めたんじゃないかという。前半もいい具合で入れたと思うので、やはり、そこは本当に悔しいですね」と肩を落とした。100メートルと合わせて5レースを走り、疲労感も否めなかった。

 だが、ボルトが05年に18歳で初めて200メートル決勝に出たときの8位より一つ上の順位だったことを思えば、去り行く王者の来歴をわずかずつ先行している。次の時代を担うべく、“サニブラウン伝説”の狼煙を上げたという徴(しるし)だろうか。

 そんな印象を強く持ってしまうのは、100メートル予選の走り(準決勝のスタートでつまずくミスがなければ決勝に進出していたと思われる)に進化の度合いが如実に表れていたからだ。

 このレース、サニブラウンは2組の3レーンに入った。9レーンには世界歴代2位の記録を持つヨハン・ブレーク(ジャマイカ)がいる。だが、スタートで軽やかなステップを踏んで鋭く出ると、身体2つ分リードし、188センチのすらりとした体躯がトラックを駆け抜ける。中盤以降も長い手足をゆったりと柔らかく操るほどに軌跡がスーッと伸びていく。重心の乗り込み、すなわちドライブを極めて滑らかに効かせている。最後はブレークさえ置き去りにし、流し気味にトップでフィニッシュラインを駆け抜けた。

 向かい風で自己タイの10秒05を記録し、18歳5カ月にして、まるで世界のトップのような堂々たる走りっぷり。もはや9秒台などあっという間に出してしまうだろうという予感がにおい立っていた。

「ヨーロッパで学んだ技術をお見せしたい」

 久しぶりの国内レースとなった5月5日のゴールデングランプリ川崎の前日会見で、サニブラウンはこう語っていた。

 高校2年だった一昨年。世界ユース選手権の100、200メートルで2冠と大会新を達成し、世界選手権200メートルに史上最年少での出場を果たすなど、ボルトを上回る足跡を残した。だが、この頃の走りは脚が後ろに流れてオーバーストライド気味。上体も左右に揺れ、軸が後傾する粗削りな走りだった。

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