ふたたび歓声。噴火前の西之島は鳥の楽園だった。彼らは2年もの噴火を経ても島を離れず、ほんの少しだけ残った大地で新しい命を生み出そうとさえしている(ちょうど繁殖活動が始まった時期だ)。そのたくましさ! 肉眼では分からなかったが、撮った写真を拡大してみると、台地上になった旧島部分には草があるのが分かる。西之島で草があるのはいまのところここだけだ。
「私はネイチャーガイドとして必ず島の成り立ちを話すようにしていますが、今回の西之島噴火は、地質的な興味だけではなく小笠原の生態系がどう作られてきたかを生で見ることができるわけで、興味は尽きません」と語るのは父島の島田克己さん。4月に続き2度目のクルーズ参加だ。
小笠原諸島は他の大陸と一度もつながったことがなく、ほかの陸地と遠く離れた“海洋島”。独自の生態系が決め手となり、2011年6月には世界自然遺産に登録された。どこからもあまりに遠いため、生物は「羽で飛んでくる」「波に運ばれてくる」「風で飛ばされてくる」のいずれかでしか島にたどり着けない。どのようにして、どこから、どんな生物がたどり着いて小笠原独特の生態系を築いていったのか。最近ではDNA解析によりルーツの解明が進んでいるが、西之島で今後、生物が定着していく様子を観察すれば、小笠原の生態系の成り立ちが明らかになるだろう。
さらに、今回の噴火で流れ出た溶岩や噴石など噴出物はすべて安山岩だという。安山岩は大陸を形成する物質で、それがなぜ海洋の真ん中にある西之島から噴出しているのかという点も、研究者の間で「地球創世の謎を握っているかもしれない」と注目されている。
小笠原の生態系の謎解明や、島の誕生というトピックスは研究者だけではなく小笠原住民の胸をも熱くしている。
「はるか遠い未来に消えるだろう島誕生の瞬間に立ち会い、この目で見る機会はもう無いでしょう。一生に一度の機会だと思います」と思いを語るのは父島在住でガイドとして活躍する佐藤博志さんだ。
また、母島からやってきた宮城雅司さんは
「地球は生きている! ということを感じたかった。水蒸気や何も生えていないむき出しの岩石に感動しました。自分の村の中でこんなすごいことが起きたら見に来ずにはいられないです」と興奮気味に語った。
小笠原海運(株)によると今回のツアー参加者数は211名(4月は403名)。いずれも半数以上が小笠原村の住民だったということだ。
噴火活動も収まった今、研究者の上陸も近いと思われる。これから先、研究、分析が進むに従って、多くの発見があるに違いなく、当面、西之島のニュースには注目していたい。(島ライター 有川美紀子)